運送事業者への教育訓練の支援が増えている
運送業の巡回指導と運輸局によるトラック監査との違い
運送事業者には巡回指導が定期的に実施されていますが、巡回指導はトラック協会から委託を受けた適正化事業実施委員会が実施します。
対して、トラック監査は運送業の営業所管轄の地方運輸局の監査担当が実施され、その種類は主に以下の3つです。
- 特別監査:死亡事故を起こした場合などに実施される
- 巡回監査:通報等のより法令違反の疑いがある場合に行われる
- 呼び出し監査;都道府県公安委員会からの通報等で行われる
最も大きな違いは行政処分になる確率の違い
巡回指導とトラック監査の最も大きな違いは、実施されたあとの行政処分になる確率の違いです。巡回指導は、30を超える指導項目をもとに行われ、実施状況によりA~Eの5段階で評価されて、DまたはE評価を付けられたときは監査の対象になります。
しかし、点呼をまったく実施していない、運行管理者が未選任などの実態がなければD・E評価になることはありません。したがって巡回指導で行政処分になる確率は、よぼど悪質な運送事業者でない限りほぼ0%です。
対して、トラック監査、特に特別監査の場合は実施されれば行政処分になる確率はほぼ100%と言われます。
巡回指導では、たとえ未実施事項が発見されても、是正したものの写しを1ヶ月後に適正化事業実施委員会に郵送で送れば行政処分にはなりません。トラック監査では、未実施事項が発見されれば行政処分になることは免れません。
巡回指導で運転者に対する教育訓練が指摘されるケースが多い
巡回指導では様々な指摘を受けるようですが、「運転日報」「点呼」「労務管理」「その他帳票類」については詳しく解説しているサイトも多々ありますので、そちらを参照いただくとして、当社に相談が大いのが、教育訓練の支援です。
教育訓練は安全配慮義務の観点からも、油断せずに継続的に実施しておかねばなりませんが、意外に自社でやり切れないという実態があるようです。
選任や半専任の担当者を置ければいいですが、中小零細企業だと運行管理者が主体者になり実施するケースが多いのですが、運行管理者もまたお客様や自社ドライバー対応などで忙しいのが常です。
そうした事情から、巡回指導で運転者に対する教育訓練が指摘されるケースが多いものと推察されます。そうした背景から、当社に教育訓練とその記録残しだけでも支援して欲しいという要請が入るのだと思われます。
支援方法は、全ドライバーが集まる機会を月1度設けてもらい、そこで国交省発行の「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」を使用して勉強会の講師を受け、その記録についてアドバイスするという感じです。
自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル
当該マニュアルは、トラックにより運送事業を行う事業者が、「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針/平成13年8月20日国土交通省告示第1366号」(「指導・監督指針」)に基づき実施することとされている運転者に対する指導及び監督の実施方法を、わかりやすく示したものです。
マニュアルに基づく指導及び監督を確実なものとするには、トラック事業者は指導及び監督を実施する運行管理者等に必要な技能及び知識の習得を促進し、常にその向上を図るように促すことが必要となります。
指導・監督指針の目的
トラック事業者が行う運転者に対する指導・監督は、安全輸送を心がけるための知識を身につけさせることを目的に、継続的かつ計画的に実施することとされています。
トラック運転者は、大型の自動車を運転したり、多様な地理的・気象的状況のもとで運転したりすることから、道路の状況及びその他の運行の状況に関する判断や、高度な能力が要求されます。
このため、トラック事業者は、トラック運転者に対して、交通事故の有無に関わらず、継続的かつ計画的に指導・監督を行い、他の運転者の模範となるべき運転者を育成していく必要があるわけです。
トラック事業者がトラック運転者に対して行う『一般的な指導・監督』は、「貨物自動車運送事業法」等の法令に基づく運転者が遵守すべき事項に関する知識のほか、トラックの運行の安全を確保するために必要な運転に関する技能・知識を習得させることを目的として行います。
当社での忘れ防止の意味も含めて、お客さまにすんなりと全体像をイメージしてもらうのに、以下で本編目次を全体に亘って記しておきます。
第2編/本編目次
第1章・一般的な指導及び監督の指針の解説
- Ⅰ.トラックを運転する場合の心構え
- 1.トラック輸送の社会的重要性
- (1)トラック輸送の社会的に重要な役割
- (2)トラック運転者の使命
- 2.トラック事故の社会的影響
- 3.交通事故統計を用いた教育
- (1)トラックによる交通事故発生状況の推移
- (2)トラックによる交通事故発生状況の傾向
- 4.安全運行の心構え
- (1)トラックの運転が他の運転者に与える影響の大きさ
- (2)模範となる運転者としての心構え
- Ⅱ.トラックの運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
- 1.トラック運行に係る法令
- (1)貨物自動車運送事業に係る法令
- (2)自動車の運転に係る法令
- (3)車両管理に係る規定(トラックの点検、車両チェックの必要性)
- 2.義務を果たさない場合の影響の把握
- (1)運転者に対する刑事処分
- (2)運転者に対する行政処分
- (3)会社に対する処分
- (4)重大事故を引き起こした場合の罰則及び加害者・被害者心理
- Ⅲ.トラックの構造上の特性
- 1.トラックの特性に合わせた運転
- (1)トラックの「車高」に合わせた運転
- (2)トラックの「車長」に合わせた運転
- (3)トラックの「車幅」に合わせた運転
- (4)トラックの「死角」
- (5)トラックのスピードの特性
- 2.トレーラの特性に合わせた運転
- (1)トレーラの特性
- (2)トレーラの安全運行
- 3.貨物の特性を理解した運転
- (1)貨物積載時と空車時の違い
- Ⅳ.貨物の正しい積載方法
- 1.偏荷重の危険性
- (1)偏荷重の発生要因と危険性
- (2)偏荷重による運転への影響
- (3)軸重に関する規定及び軸重違反を防止するための積載方法
- 2.安全輸送のための積付け・固縛の方法
- (1)積載のルール
- (2)荷崩れしない積付けの方法
- (3)荷崩れしない固縛の方法
- 3.荷崩れ防止のための走行中の注意点
- Ⅴ.過積載の危険性
- 1.過積載による事故要因と社会的影響
- (1)過積載による事故の要因
- (2)社会に対する影響
- 2.過積載による罰則
- (1)運転者に対する罰則
- (2)過積載に対する警察の措置
- 3.過積載の防止
- (1)積載量の制限
- (2)過積載防止のために運転者に求められること
- (3)過積載に対する荷主などへの禁止事項
- Ⅵ.危険物を運搬する場合に留意すべき事項
- 1.危険物の性状
- 2.危険物輸送の基本事項
- (1)輸送にあたっての安全確認事項
- (2)事故が起こった場合の対処
- 3.タンクローリー運行上の注意事項
- (1)タンクローリーの車両特性
- (2)タンクローリーの運行上の注意事項
- Ⅶ.適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況
- 1.適切な運行経路の選択と経路情報の把握
- (1)適切な運行経路の選択の必要性
- (2)運行経路情報(道路・交通)の事前把握
- (3)情報を踏まえた安全運行のための留意点
- 2.許可運送における経路選択
- (1)許可運送について
- (2)許可運送を安全に運行するための留意点
- Ⅷ.危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
- 1.危険予測運転の必要性
- 2.危険予測のポイント
- (1)道路を利用する歩行者や自転車などの行動特性に応じた配慮
- (2)悪天候・夜間の危険への配慮
- 3.危険予知訓練
- 4.指差呼称及び安全呼称
- 5.緊急時における適切な対応
- (1)交通事故や車両故障が発生した際の対応
- (2)自然災害の発生に備えた対応
- Ⅸ.運転者の運転適性に応じた安全運転
- 1.適性診断の必要性
- 2.適性診断結果の活用方法
- (1)適性診断結果の活用方法の例
- (2)「性格」の診断結果の活用
- (3)「安全運転態度」の診断結果の活用
- (4)「認知・処理機能」の診断結果の活用
- Ⅹ.交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因とこれらへの対処方法
- 1.交通事故の生理的・心理的要因
- 2.過労運転防止のための留意点
- (1)労働時間についての規定
- (2)運行中の留意点
- (3)日常生活での留意点
- 3.飲酒や薬物の影響による危険運転防止のための留意点
- (1)飲酒運転に対する罰則
- (2)飲酒運転防止のための留意点
- (3)覚せい剤等の使用禁止の徹底
- 4.ヒューマンエラーを防ぐために
- (1)道路交通法の禁止事項(携帯電話等の使用規制)
- (2)あせり、イライラ、疲れ時の運転
- (3)運転席周辺の環境整備
- 11.健康管理の重要性
- 1.健康起因の事故と健康管理の必要性
- (1)疾病が要因の交通事故
- (2)健康診断の受診の必要性
- (3)ストレスチェック等の受診の必要性
- 2.健康管理のポイント
- (1)身体面の健康管理
- (2)精神面の健康管理
- 12.安全性の向上を図るための装置を備えるトラックの適切な運転方法
- 1.運転支援装置に係る事故の事例
- 2.運転支援装置の性能及び留意点
- (1)ブレーキ制御を行う装置
- (2)ハンドル操作の警告や支援を行う装置
- (3)車両姿勢維持を支援する装置
第2章・指導及び監督の実施に当たって配慮すべき事項
- Ⅰ.事業者の運転者に対する指導及び監督の責務
- (1)事業者の指導及び監督の責務
- (2)運転者が違反した場合の事業者の責務
- (3)計画に基づく体系的な指導及び監督の必要性
- (4)点呼等における日常的な指導及び監督の必要性・・
- Ⅱ.計画に基づく体系的な指導及び監督の実施
- (1)運転者毎の特性の把握
- (2)運転者毎の重点項目の設定
- (3)指導及び監督の実施計画の作成
- (4)特定の運転者に対する指導
- (5)運転者の理解を深める指導及び監督の実施
- (6)指導の内容を運転者に理解させるための手法の活用
- Ⅲ.点呼等における日常的な指導及び監督の実施
- (1)日常的な指導及び監督の目的
- (2)点呼における指導及び監督
- (3)点呼時に行った指導及び監督の記録
- 参考1.貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針
- 参考2.運転者の指導及び監督における運行管理支援機器の活用について
- 1.運行管理支援機器とは
- 2.運行管理支援機器を活用した指導及び監督
なかなかの分量があり、それなりに疲れますが、とても重要なことなので漏れなく継続的に実施しておきたいものです。
参考リンク
国土交通省「事業者が取り組む安全対策:運転者に対する教育」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/instruction.html
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