企業に求められるBCP「災害への備え」

企業に求められるBCP「災害への備え」

「災害への備え」できていますか?

 関東地方で地震が頻発しているというニュースに接し、改めて「災害への備え」について考えたという方も多いのではないでしょうか。

 企業には、災害への備えとして、人命の安全確保や物的被害の軽減のための対策、事業継続(BCP)の視点からの対策を講じておくことが求められます。
 中でも重要なのは、「従業員の安全を守る」ための対策です。

災害に係る企業の安全配慮義務

 企業は従業員に対する安全配慮義務を負っていますが、自然災害についても、状況によって法的責任があるものと考えるのが妥当です。
 たとえば東日本大震災での津波被害に係る七十七銀行事件判決(仙台地判平成26年2月25日・仙台高判平成27年4月22日)では、企業は社員の生命や健康が自然災害の危険からも保護されるよう、安全に配慮する義務を負う旨が述べられています。

七十七銀行事件

1.事実の概要

 被告の女川支店は、海岸から100m、海抜0.3mの距離にあり、震災当日は支店長ほか2名の行員に加え、派遣スタッフあわせ13名が勤務していました。
 同支店は3階屋上は13.35mの高さでした。銀行は、平成16年に出された宮城県地震被害想定に関する報告書に基づき、宮城県対策課などにも確認し、予想される女川町の津波の最大の高さが5.3~5.9mであることから、従来の避難指定場所のほかに、屋上への避難も加え、災害対策プランを立てていました。

 大地震発生後、気象庁は、午後2時49分大津波警報を発令し、宮城県への津波到達が午後3時頃で予想される津波の高さは6m(場所によってはそれ以上)と発表しました。3時14分頃宮城県に津波到達が発表され、予想される高さが10m以上とされました。これらの情報はNHKテレビなどの各放送局からTVで、またラジオで放送されていました。支店長は外出中でしたが2時55分頃支店に戻り、大津波警報が出ていること、海に引き波が発生していることを行員らに伝え、3時5分頃皆屋上に避難しました。
 支店長は、2階屋上ではラジオを聴き、海の様子を見ていることを指示しました。3時25分頃から5分ほどで、津波が屋上半分くらいまで水嵩が増えたため、3階塔屋屋上まで全員避難しましたが、全員高さ20mの津波にのまれ、その中の1人だけが助かったということです。

2.判決内容

 判決では、銀行には行員に対しては、労働契約の付随義務として、派遣スタッフに対しては、信義則上、不法行為法上のそれぞれ安全配慮義務があり、その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるように配慮すべき義務を負っていたとしました。
 その上で、原告が指摘する、立地の特殊性に合わせた高さの支店建物の設計義務については、そこまでの義務は使用者に認められないとしてこれを否定し、安全教育の施された管理責任者の配置義務、適切な避難訓練実施義務については、義務違反を否定しました。

 本判決は、高台に避難せず、屋上に避難したことについて、被告の女川支店長が、気象庁の速報を信頼して行ったことについて、安全配慮義務違反はないとした点が注目されます。
 東日本大震災が、未曾有の災害であったことから、気象庁の警報が、時間によって徐々に変わっていった為、避難場所の選定、その後の変更について適切な判断ができなかったわけですが、それを以て被告や支店長を責めることはできないでしょう。誰もが同じ判断をした可能性があります。

山元町保育園事件

1.事件の概要

 本件では、保育所は海岸線から1.5km西に入った所にあり、その標高は約3mでした。
 大地震が発生した後、本保育所では園児13名と保育士14名が園庭に避難しました。気象庁は2時50分、津波の高さ6mとする大津波警報を発令、3時14分宮城県は10m以上とする第2大津波警報を発令しました。その後3時30分には気象庁から第3大津波警報を発令し、津波予想域を拡大しました。

 午後4時頃になり、津波が保育所南東約80mに押し寄せていることを発見し、皆10台の車に分乗して逃げることになりました。
 そのうち3台の車だけが自走で避難できましたが、後は津波に流されました。

 結果として高台にあった幼稚園には津波が来なかったにもかかわらず、沿岸部に向かったバスは津波で横転し、園児5人が車内で火災に巻き込まれて死亡したものです。

2.判決の内容

 同園の災害対策マニュアルでは「地震の震度が高く、災害が発生するおそれがある場合は、全員を北側園庭に誘導し、動揺しないように声掛けして、落ち着いて園児を見守る。園児は保護者のお迎えを待って引き渡すようにする」と定めていたにも関わらず、職員のほとんどがその内容も知らなかったなど園の対応が問題視され、2013年9月に園児1人当たり約2,300万円の賠償請求判決が下されました。

従業員を守るための対策

 企業の安全配慮義務を果たし、従業員を災害から守るための対策としては、たとえば、災害時の対応マニュアルを策定して従業員向けに周知徹底しておくこと、防災訓練を実施することが挙げられます。
 また、社内の防災体制を整備するとともに、災害時の安否確認の方法についても情報を共有しておく必要があります。
 いずれも当然のことではありますが、いざ事が起こったときには、当然のことがきちんと行われていたかが問われます。

 首都直下型地震や南海トラフ地震も、いつ発生しても不思議ではないとされています。
 できるだけ早期に、「従業員の安全を守るための備え」ができているか、改めて確認しておくことをお勧めします。何かあってからでは遅いのです。

企業がすべき最低限の危機管理・BCP

 七十七銀行判決では、災害時における「安全配慮義務」に照らし合わせ、多数の死者は発生しているが、同行はBCPの策定や、災害時にもマニュアルどおりに従業員を行動させたことを認められ、「結果回避義務」を果たしたと解され、損害賠償請求を免れました。

 一方の日和幼稚園判決では、園長側の「予見可能性は困難」との主張を退け、マニュアルどおりに行動しなかったどころかマニュアルの存在すらも知らない職員たちの実態までもが明らかになってしまい、高額の賠償請求判決が下されてしまいました。

 2つの判決は、決して「高度な危機管理」を求めているものではなく、あらゆる組織が取り組むことができる「最低限レベルの安全配慮義務」を示したものに過ぎないと捉えられます。

 「科学的知見に裏打ちされた、最悪レベルにいたった際の合理的なマニュアルを策定し、日々状況に応じながらマニュアル自体を改善するとともに、従業員がマニュアルどおりに行動できるように訓練を繰り返す」。
 これらのことは、企業に求められる最低限の危機管理であり、BCPであると言えます。
 そして大切なことは、多くの犠牲者が発生した東日本大震災の数多くの教訓を、それぞれの組織が、しっかりと後世に伝えていくことでしょう。

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