2018年7月から自動車運送事業者 行政処分基準強化・厳罰化

2020年1月24日

2018年7月から自動車運送事業者の行政処分基準強化・厳罰化

今回改正は長時間労働是正や過労の防止が目的

 2018年7月1日より、自動車運送事業者(トラック、バス、タクシー)の行政処分基準が強化され、厳罰化されます。
 今回の改正は、長時間労働の是正や過労の防止のために行われるもので、大きくは過労防止関連の3つの違反(1)乗務時間等告示遵守違反、(2)健康状態の把握義務違反、(3)社会保険等未加入となります。
 具体的には過労防止関連違反について、「車両停止日数」と行政処分時の「停止車両割合」が引き上げられます。

 運送事業者は内容を正確に把握して、ペナルティが課されないようにしたいものです。
 以下でその内容を確認してまいりましょう。

(1)乗務時間等告示遵守違反

 乗務時間等告示の主な内容は以下のとおりです。乗務時間等告示について、1か月間の違反件数(監査をうけたドライバーで最も違反が多い者)により行政処分が決まります。

  • 1か月の総拘束時間(原則293時間以内、例外320時間以内)
  • 1日の最大拘束時間(16時間)
  • 1週の拘束時間(1日15時間超2回以下)
  • 1日の休息期間(連続8時間)
  • 連続運転時間(4時間運転で30分以上の休憩等)
  • 1日の運転時間(2日平均9時間以下)
  • 1週の運転時間(2週平均44時間以下)

初違反の場合

  • 【改正前】
    5件以下で「警告」、6件以上15件以下で「10日車」の車両停止、16件以上で「20日車」の車両停止
  • 【改正後】
    上記の処分基準はそのままで(但し、以下b.も違反件数に加算されます)、以下a.b.の違反があった場合、さらに車両停止日車数を加算

    • a.1か月の拘束時間違反(293時間超の場合。労使協定がある場合は最大で320時間超)
    • b.休日労働の限度に関する違反(2週間に1回を超えて休日労働をさせた場合)

乗務時間等告示遵守違反の改正前と改正後の比較

  • 5件以下:〔改正前〕警告、〔改正後〕警告
  • 6件以上15件以下:〔改正前〕10日車、〔改正後〕10日車
  • 16件以上:〔改正前〕20日車、〔改正後〕20日車
  • a.拘束時間・b.休日労働違反 1件:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕+10日車
  • a.拘束時間・b.休日労働違反 2件以上:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕+20日車

 これまでは、a.1か月の拘束時間違反をしても、全体の違反件数が5件以下であれば「警告」で済んでいました。
 改正後は、「10日車」の車両停止になってしまいます。乗務時間等告示の中でも「重い」違反の1つに位置づけられたことになります。

 また、b.休日労働の限度に関する違反については、これまで国土交通省の監査で違反として取り上げられることはほぼありませんでした。
 今後は、特に繁忙期について注意が必要です。

(2)健康状態の把握義務違反等

 続いて「健康状態の把握義務違反」、「社会保険等未加入」についてです。

健康状態の把握義務違反<初違反の場合>

  • 【改正前】
    未受診ドライバーが、全体の50%未満で「警告」、50%以上でも「10日車」の車両停止
  • 【改正後】
    年1回の健康診断未受診者が1名で「警告」、2名で「20日車」の車両停止、3名以上で「40日車」の車両停止

健診未受診の改正前と改正後の比較

  • 全ドライバーの50%未満:〔改正前〕警告、〔改正後〕定めなし
  • 全ドライバーの50%以上:〔改正前〕10日車、〔改正後〕定めなし
  • 1名:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕警告
  • 2名:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕20日車
  • 3名以上:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕40日車

 健康診断の受け忘れや期限を超える受け遅れのドライバーが3名いれば、初違反でも「40日車」の車両停止のリスクがあります。
 今まで「警告」で済んでいたことを考えると、相当厳しくなると言えます。

社会保険等未加入(初違反の場合)

  • 【改正前】
    一部未加入で「10日車」の車両停止、全部未加入で「20日車」の 車両停止
  • 【改正後】
    1名未加入で「警告」、2名未加入で「20日車」の車両停止、3名以上で「40日車」の車両停止

社会保険未加入の改正前と改正後の比較

  • 加入対象者の一部:〔改正前〕10日車、〔改正後〕定めなし
  • 加入対象者の全て:〔改正前〕20日車、〔改正後〕定めなし
  • 1名:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕警告
  • 2名:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕20日車
  • 3名以上:〔改正前〕定めなし、〔改正後〕40日車

 特に注意したいのは、試用期間中のドライバーとアルバイトのドライバー(一般のドライバーと比べ勤務日数が少ない)です。
 試用期間中であっても、社会保険等は入社後すぐに加入させなければなりません。また、アルバイトのドライバーでも、一定の基準に該当すれば社会保険等の加入が義務となります(例えば雇用保険の場合は、雇用期間31日以上、かつ週の所定労働時間20時間以上で加入手続きが必要)。

 社会保険に加入すべきドライバーが未加入となっていないか、今一度、見直しをしましょう。

(3)停止車両割合の引き上げ

 最後に、トラックに関する行政処分の停止車両割合の引き上げについてです。
 これは、「行政処分により使用を停止させる車両数の割合を最大5割に引き上げる」という、厳しい改正内容です。

 具体例で試算し、改正前後を比較してみます。

行政処分の試算(例)

 初違反の場合

  • 乗務時間等告示違反:16件
  • 健康診断未受診違反:50%未満(ドライバー10名のトラック運送事業者で、3名が未受診)
  • 社会保険等未加入:3名
  • 車両数10台

【改正前】

  • 乗務時間等告示違反:16件→「20日車の車両停止」
  • 健康診断未受診違反:50%未満→「警告」
  • 社会保険等未加入:3名(一部未加入)→「10日車の車両停止」
  • 合計:「30日の車両停止」=2台×15日間

【改正後】

  • 乗務時間等告示違反:16件→「20日車の車両停止」
  • 健康診断未受診違反:3名→「40日車の車両停止」
  • 社会保険等未加入:3名→「40日車の車両停止」
  • 1か月の拘束時間違反(293時間超)→「10日車の車両停止」
  • 休日労働の限度違反(2週間に1回超)→「10日車の車両停止」
  • 合計:「120日車の車両停止」=5台×24日間(*)

(*)今回の改正による「停止車両割合」の規制が適用されます。トラック運送事業者に対して最大で5割(事業規模、処分日車数により変動あり)、すなわち半分の車両が同時に停止されます。

 上記のケースでは、(10台×5割=)5台が同時停止車両数になります。
 処分日車数を同時停止車両数で割ると(120日車÷5台=)24日、つまり、5台×24日間の車両停止処分となるわけです。
 改正前なら2台×15日間の車両停止が、同じ違反内容(いずれも初違反)でも改正後は5台×24日間の車両停止となるということです。

 上記の事例で、同じ違反が改正後は相当の重さ、経営ダメージになることをご理解いただけると思います。
 いますぐ内部監査などを実施して、自社の「隠れた行政処分リスク」を炙り出し、改善に着手することをお勧めします。

参考リンク

その他詳細は、国土交通省HPでご確認ください。
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000338.html

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