茨城県社労士会会報寄稿「建設業の業務をより理解する」

茨城県社会保険労務士会会報寄稿「建設業の業務をより理解する」

 当記事は、当社の代表・菅野が茨城県社会保険労務士会の2022年11月会報に寄稿した記事です。せっかくなのでご披露させていただきます。

「まちを創る」「まちを創造する」

 野っぱらを見て、ここに仮設の事務所を立てて、ここに仮設の道路を作って、最終的にこういう公園にしようとイメージがなされ、その施工計画に基づいて建設がスタートします。「まちを創造する」技術者でありエンジニアというのが、建設業の本来的業務であり姿でしょう。

 管理する事項は多大で、代理人は社長の代理者として人・モノ・金・情報の資源をできるところまで駆使して、まちを創造しています。そこでは発注者との調整、労働する人、協力会社、重機、工程、安全、品質、予算、天候、産業廃棄物などと格闘しながら、生き物の現場を管理しているのが建設業の特性です。

 自分はISO9001・ISO14001・ISO45001を通して、内部監査に携わることが多々あります。そこでは却って学ばせていただくことが多いわけです。内部の業務監査をすることは、建設業を熟知していないとできないのですが、独立してからこのかた20年、ずっとそんなことをしてきました。そこで学ばせていただいたことや、苦渋の数々を聞かされ、生まれ変わって資金があるなら建設業を営んでみたいなあと感じることも多々ありました。

 「まちを創造する」建設業は、この世に無くてはならない職業であり、その特性を良く理解することが、実は労働条件審査に当たる審査員には要求されることなのだろうと感じます。

関連する法令は莫大

 建設業において生産される建築物は、多種多様な種類を持ち、生産される場所も異なります。また、建設業は土地に依存し、自然条件の影響を受けます。建設事業会社の役割は、社会基盤整備を通して"社会の発展"や"豊かな暮らし"を実現することにあります。

 その一方で、建設活動には周辺環境や自然環境への影響が避けられないという側面があり、環境保全への取組みは「企業の社会的責任」、「豊かな環境づくりへの貢献」と捉える必要もあります。

 地球環境を保全し、循環型社会の構築に努めることは、豊かな未来の実現への貢献であり、地球温暖化防止、資源循環の促進、有害物質への対応、生態系保全等、環境保全への取組みはもはや必須です。

 かかる中で、関連する法規制も莫大になります。以下主なる関連法規を列記してみます。

 建設業法、建設工事リサイクル法、労働基準法、労働安全衛生法、港湾法、海岸法、建築基準法、公共工事品質確保促進法、住宅品質確保促進法、公共工事入札適正化法、土地区画整理法、都市計画法、労災法、雇用保険法、労働保険徴収法、健康保険法、厚生年金法、道路交通法、消費者契約法、税法、商法、民法などがあります。

 また環境関連の法規制としては、次の通りです。

 環境基本法、環境基本条例、廃棄物処理法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、大気汚染防止法、排出ガス対策型建設機械普及促進規程、オフロード法、浄化槽法、グリーン購入法、資源有効利用促進法、家電リサイクル法、循環型社会形成推進基本法、地球温暖化対策法、 フロン回収・破壊法、フロン類適正化法、自動車リサイクル法、騒音規制法、振動規制法、建築基準法、化学物質管理法、PRTR法、石綿障害予防規則、海洋汚染及び海上災害防止法、海岸法、港湾法、各条例などです。

 あまりに多彩な法規制に縛られることが分かります。

災害時の復旧・復興も大きな使命

 また災害時には、被害状況の早期把握と復旧、救援活動等に全力を挙げる必要があります。自然災害が多いとされる日本では、災害からの復旧・復興に向けての社会インフラの整備など、建設業の使命というものを痛感せずにはおれません。震災をはじめとする自然災害が日本全土どこででも起こり得ます。

 建設業に携わる方々は、いざという時に機能できるよう、技術や精神の鍛練を怠ってはいけないのだと感じました。

震災復旧・復興時には建設業の皆さまも多忙であり、働く人に疲労が見え隠れする中で、人のマネジメントをしっかりとしていく必要性を感じたものです。

 今直面しているのが、人手不足の深刻化、資材高騰などで、克服する課題も多々あると推察されますが、工期を守るために粛々と工事を進める姿勢に胸を熱くします。

CSRの実現も社会的使命

 近年重要視されているのが「CSR(企業の社会的責任)」です。CSRは、「ステークホルダー=利害関係者:発注者・取引先・地域住民・従業員等」と企業との信頼関係を築くものです。最近では、社会の一員として社会貢献活動や環境問題等に積極的に取り組む企業等が増えており、各社ともステークホルダーと良好な関係を結び、将来にわたって着実に成長していく企業を目指す必要があります。

業務改善や効率化のヒントはDX化と効率的データ管理

 今回は労働時間の管理をメインに審査しましたが、労働時間の削減は業務改善や業務効率化を十分に進めないと効果が見込めません。そこで重要になってくるのが業務のDX化やデータの効率的な管理です。代理人一人ひとりが施工計画関連データや、竣工書類関連データを持参している会社も珍しくありませんが、データは一元で管理して、再利用を容易にすることが業務改善や効率化のカギです。そしてリモートの有効活用が鍵です。そうした具体的ヒントを出してあげることが重要なのだろうと推察します。

 労働法関連の届出は疎漏しても業務は止まりませんが、建設業法違反や産廃法違反は業務を止められてしまう恐れがあります。そうした建設業特有の痛みを知り、業務の骨の個所は我々は大いに勉強する必要があります。そして建設業法や産廃の取扱い、建退共の実務や、1年を超えるか、あるいは1.8億以上の個別有期事業となる現場だけは36協定を提出して管理しましょうなど、現実的かつ有効なアドバイスを通して、建設業の役割を認識し、共に成長を果たすことが重要なのだろうと思料します。

 機会があれば、自分の監査リストも披露します。 (土浦支部 菅野 哲正)