コロナショックで大苦境の「ホテル業界」から学ぶ

2020年4月19日

コロナショックで大苦境の「ホテル業界」から学ぶ

従来から明確にターゲットを絞ったところは強かった

 コロナショックで悲鳴が聞こえるような状況ですが、こうした環境にあっても比較的影響を受けていないホテルがあるそうで、そこで特徴的だったのが「従来から明確にターゲットを絞ってきた」ホテルだそうです。

 特に日本人旅行者に傾注してインバウンド率をコントロールしてきた施設だということです。
 とても示唆に富む事象と捉えられます。

 インバウンド率を抑えてコントロールしてきたホテルは、今は強いそうです。会員への利益を手厚くしてきたホテルも同様ということです。
 すなわち日本人旅行者、中でも多頻度利用者である出張族に支持されてきたホテルともいえます。
 底堅く支持されてきたホテルの強さが際立っているということでした。

 多くのリピーターとファンに支持されている星野リゾートでも「インバウンドの比率が高くなかったところは、意外に維持できている印象(星野佳路氏)」(日経ビジネス2020年3月13日)としていますが、これらはターゲットを明確にした上でゲストのニーズを的確に捉え充足させることを繰り返してきた結果と分析しています。

地に足を付けてた力強い事業活動こそが大切

 新型コロナウイルス感染拡大の打撃に手をこまねいているだけではありません。コロナウイルスの被害が拡大してからはさすがにやや目立たなくなっていますが、宿泊施設の中には「いまこそ顧客のハートを掴むチャンス」とばかり、新しいアイディアで窮地を乗り切ろうという姿もみられます。

 この国難から私たちは何を学び教訓とするのか。「おもてなし」の意味を再認識する時が来ているのかもしれません。
 顧客のニーズをよく捉え、その期待値をちょっとでも上回る努力を継続すること、自分たちの強みを理解してもらうこと、地に足を付けて力強い事業活動こそが大切なことを、危難の時には学ばせていただきます。

コロナショックで大苦境の「ホテル業界」いよいよ明暗が分かれ始めた

そもそも供給過剰だったところに…
瀧澤 信秋 ホテル評論家
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71399

インバウンド活況から一転

ホテルが取れない! という騒動もまるで昔日の出来事。先日、仕事で京都へ出向くためにホテルの予約をしようしたが予約サイトには信じられない価格が並んでいた。高騰が叫ばれた当時は2万円を下らなかったホテルがなんと5000円。人気のホテルが料金を下げるとドミノ倒し的に他のホテルへも下落傾向は波及していくが、そうした施設では2000~3000円という料金も見られた。

民泊にいたっては数百円という設定も。このような状況に至ったのは、直近としては新型コロナウイルスの影響が確かにあるが、従前から潜在していた様々な要因も指摘できる。

そもそも訪日外国人旅行者の増加傾向が顕著になったのは2013年頃。同年に訪日外国人旅行者数は初めて1000万人を突破した。その後の増加も著しく、2016年には2000万人、2018年末には3000万人と激増、インバウンド活況を商機と捉えた事業者が、この流れに呼応するかのように次々とホテル計画を立ち上げていった。

ホテル“計画”を立てるのはいいが、訪日外国人旅行者が急増したからといって一朝一夕にホテルは開業できない。新規開業となればプロジェクトのスタートからサービスの開始まで2~3年は要する。すなわち、逼迫(ひっぱく)する需要に対して、直ちには宿泊施設を供給できない状態が続いたのだ。

近年言われた“ホテル不足”とは、訪日外国人旅行者数の激増と、それを受けたホテル開業までの時差がもたらした「一時的なミスマッチ」の側面があったと筆者は分析している。

日々ホテルへ取材に出向く中で、現場のホテルスタッフから初めてホテル余剰の懸念を聞いたのが2018年の終わり頃と記憶している。世間的にはまだまだホテル活況が叫ばれていた頃で、強気の料金設定も多く見られた。一転、懸念が的中するかのように2019年に入ると状況が変わった。人気観光都市や大都市部のホテルで稼働率や料金の下落傾向が見られるようになったのである。

そして新型コロナウイルス

そうした稼働率や料金低下の理由として訪日外国人旅行者の増加傾向の鈍化も指摘されている。特に、日韓関係の悪化による韓国人旅行者の激減も遠因としては指摘されたが、ホテルの稼働率や料金の下落傾向は、やはりホテルの供給過多が顕在化した結果であろう。新型コロナウイルスの影響で急激なホテル不況に陥ったかのようなアプローチがみられる昨今の報道だが、実は既にじわりじわりとホテル不況の波は業界を浸食しつつあったのだ。

加えて、もはや懸念材料どころか業界に大打撃を与えている新型コロナウイルス。出口が見えないだけに体力のない事業者には廃業を検討する声も聞かれる。新型コロナウイルスによる宿泊業界への影響については、特に2月下旬以降大きく報道されてきた。

実際に宿泊施設を取材してみると、これまでほぼ訪日外国人旅行者で潤ってきたケースでは、ゲスト数でいえば最高時の80%以上減少という施設もあった。

さらに延期が決定された東京オリンピックについて、資本力の乏しい施設では想定外の事態に倒産も免れないという声もある。そもそも来年のオリンピックまで持ちこたえられるか、従業員の解雇をやむを得ないという施設もあった。このような状況下にもかかわらずホテルは増加していく。巨額の費用が投じられるホテルプロジェクト、業界全体が窮地に立たされているからといっておいそれと中止は出来ない。

そもそもプロジェクトが計画段階でストップし、予定が更地のままというケースも散見されるが、建設されつつあるものを取り壊すことは(基本的には)ない。事業用不動産サービス会社CBRE調べによると、主要9都市(東京、大阪、京都、名古屋、札幌、仙台、広島、福岡、那覇)で2019年から2021年に増加する客室数は約7万8000室という。これは2018年末のストック数の24%にも相当するとされる。

いま奮闘するホテル

一方、このような状況下にあっても比較的影響を受けていない施設もあった。筆者が取材した中で特徴的だったのが「従来から明確にターゲットを絞ってきた」ホテルである。インバウンドは押し寄せるものの、特に日本人旅行者にフィーチャーしインバウンド率をコントロールしてきた施設である。

こうした施設はデラックスホテルから旅館まで様々であるが、巨大ビジネスホテルチェーンでも同様だ。具体的なブランド名は避けるが、インバウンド率を抑えてコントロールしてきたホテルはいま強い。会員へのベネフィットを手厚くしてきたホテルも同様。すなわち日本人旅行者、中でも多頻度利用者である出張族に支持されてきたホテルともいえる。もちろん総体的に旅行者は激減しているが、だからこそ、底堅く支持されてきたホテルの強さが際立つ。

観光地の宿泊施設でも同じことがいえる。「憧れだった宿でもこのような状況だったら安く泊まれるだろうとチェックしたら多くの日で満室だった」とは友人の弁。多くのリピーターとファンに支持されている星野リゾートでも「インバウンドの比率が高くなかったところは、意外に維持できている印象(星野佳路氏)」(日経ビジネス2020年3月13日)というが、これらはターゲットを明確にした上でゲストのニーズを的確に捉え充足させることを繰り返してきた結果ともいえる。

新型コロナウイルス感染拡大の打撃に手をこまねいているだけではない。コロナウイルスの被害が拡大してからはさすがにやや目立たなくなってはいるが、宿泊施設の中には“いまこそ顧客のハートを掴むチャンス”とばかり、新しいアイディアで窮地を乗り切ろうという姿もみられる。

たとえば横浜・中華街のフラッグシップとして知られる「ローズホテル横浜」。運営会社は四川料理の名店である重慶飯店と同一ということもあり、筆者は以前からこのホテルを訪れる時には重慶飯店のハイコスパなルームサービスを満喫、ローズホテル横浜での密かな楽しみとして時々メディアで紹介していた。

“中華街に行くのに中華街で食べない”という奇妙なステイであるが、目下ローズホテル横浜ではルームサービスで四川料理を満喫するプランを積極的に販売している。宿泊者同士の接触を避ける目的もあるというが、もともとルームサービスのポテンシャルが高いだけにプランのクオリティも期待できる。

温泉旅館も奮闘している。箱根の人気旅館ブランド「一の湯」では1泊2食付きの“まじでコロナウイルス勘弁して下さいプラン”を3900円で企画・販売、約700件と予約が殺到し即売したという。箱根といえば台風19号の被害が記憶に新しい。箱根登山鉄道はいまだ全面復旧していない。そのような中での新型コロナウイルスとあって施設にとってはまさに災難続きであるが、たったひとつのアイディアで新たな顧客獲得のチャンスを開拓した好例だ。

このほかにも様々なプランを打ち出していくという。安売りそのものは理論的にも業界ではタブーとされるが、暗い雰囲気に包まれているいまの宿泊業界にあって明るいニュースを提供してくれたことは大きい。何より国全体が大変だったあの時に温泉旅をした想い出は“一の湯”という名と共にゲストの記憶に一生残っていくことだろう。

特徴的な例を挙げたが、「時間のあるいまこそサービスを見直す時」と変革を試みるホテルは多く見られる。ホテルは基本的に個室。客室で食事を愉しめるホテルや旅館も多く、このご時世であり全体的に稼働率も低く安い。パブリックスペースの利用は限定的になるだろうが、神経質なまでに消毒に気遣うホテルは多く、それでも気になるのであればもちろん自らの意思で即退避もできる。

目下、不要不急の外出を控えることを要請されているが、再び旅立てるタイミングが訪れたらならば、ホテルステイそのものを楽しむ旅は、沈んだ気分を一新させてくれることだろう。

ここまで見てきた通り、“目標6000万人”と沸き立った観光立国のさらなる推進には暗雲が立ちこめている。この国難から宿泊業界は何を学び教訓とするのか。商品化され尽くされた“ホスピタリティ”や“おもてなし”の意味を再認識する時が来ているのかもしれない。

 コロナウイルスに負けていられません。これを契機に事業の再点検と次への道筋を明確に持ちたいものです。

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