ISOで経営改善するポイント
「ISOはパスポートから免許証に」
以前ISOはパスポートと呼ばれました。海外の取引先で必要なイメージです。しかし今では、「免許証」に変わってきたと唱える向きがあります。
ISOの本質は、「組織が継続的改善していくためのルール作り」です。ご存知の「P→D→C→A」サイクルを、明確にし、実行していくことです。
業務を整然と、整理整頓していく重要な機能を持っています。
9001を例に、ザックリとした体系を説明しますと、次の通りです。
- 4章 品質システム → 文書や記録について(Plan)
- 5章 経営者の責任 → 責任権限や目標管理(PlanとAct)
- 6章 資源の運用管理 → 教育・訓練や設備及び環境(Plan)
- 7章 製品実現 → 受注から製造、引渡しまで(Do)
- 8章 測定、分析及び改善 → 製品や会社ルールのチェック(CheckとAct)
良く「ISO」は維持資金や手間が大変だとの声を伺います。はっきり言ってそうですね。自分もそう思います。それで最近は、「認証」(いわゆる審査)の無いISOがあっても良いと考えています。
名刺や看板やHPでPRするための道具ということではなくて、会社経営において、業務を改革・革新するための道具として活用するということです。
ISOは、どの業種でも利用可能な、ヒント満載な規格になっています。
ISOの規格が要求していることは、継続的な改善であり、顧客満足度のアップです。
国際的な規格なので、どの地域でも通用する経営システムだと言えます。だからこそ、安心感・信頼感を高める効果があり、営業効果に直結するのです。
「仕事を標準化する重要性」
私の体験で恐縮ですが、生保機関長時代に、仕事の仕方が同じ機関内で異なって大変困っていたことがありました。セールスは大部分の業界で、個人の個性に任せたままになっていると思われます。すなわち標準化されていない、人によってバラついている状態です。
運営上支障をきたしたのは、新人の育成過程においてです。
同時期入社の新人は、帰り道で意見交換をしますから、仕事がバラバラだと、「いったいどっちが正しいの?」という疑心暗鬼にかられます。
その積み重ねで、信頼関係は崩壊し、その新人は退社していきます。
困ったことに、資質が高く意欲もある人ほど、妥協を許さず辞めていきました。
それを解決するために、「業務の標準化」を行いました。
機関内で、ある程度統一させた「訪問手順」と「資料のストーリー化」、そして「話法」の統一をしていくために、マニュアル化していきました。
当然、お客様の個別の事情によって現地での対応は変化させざるを得ませんが、ある程度統一化した手法によって、随分と問題は解決したように思っています。
その頃ISOについては知りませんでした。
標準化を通し、業務改善・業務改革のためにISOがあると、ご理解ください。
「ISOに対する悪評の原因」
ISO取得は、コンサル料・審査費用・継続維持に多額の費用がかかります。
当初、ISOが大手製造業から発展した経緯もあり、審査員やコンサルタントは大企業の品質管理出身者・退職者や高齢者が多いのが特徴でした。70を超える審査機関がISO認証審査に当たっており、これに従事する審査員の要求事項は、中小企業に馴染まないものが認められます。
大企業のルールは中小企業には必要ないということですね。大企業の「品質管理」技法を押し付け、無意味な事務作業を要求し、負担の山が残り、挙句に業績アップにもつながっていないわけです。
ここに、中小企業のISOに対する悪評の原因があると思われます。
それに気付いていないコンサルタントも審査機関も、いずれ退場でしょう。
『中小企業のためのISO』
中小企業のISOは、経営体質強化・顧客サービス徹底を図るため、人材育成と人事考課に重点を置いたものが最適であると考えます。
つまり、ISOの規格を活用しながら、人事面や経営上のルールを強化させ、教育・訓練や現場展開の効果を高めることが望ましいと確信するに至りました。
まさに“経営革新のツール”として、ISOを活用するということです。
中小企業流ISOは、ISOの要求事項に対応させた「目標管理と人材教育」を柱に据えることが望ましく、経営者が悩みながらも形になってこなかった部分が、きっと明確になり、形として進化することでしょう。
「実態に即した人づくり・目標管理」をベースにした戦略を形にすることです。
ISO規格の要求事項と就業規則・労働安全衛生法の体系は似ています。
就業規則の『服務規程・解雇要件・表彰及び懲戒』とISOの規格をリンクさせ、あっちの制度・こっちの制度とバラバラにさせない運用をすると現場は楽でしょう。
実はISOの規格だけをこなそうとすると、教育・訓練は手薄になります。人事制度との有機的リンクが非常に重要です。人事にあっては評価制度が中核で、それに処遇(賃金等)をリンクさせます。その部分を、ISOの6章(資源管理)や品質目標に肉付けさせると教育効果が期待され、ひいては業績アップにつながっていくと考えます。
「内部効果の追及」
ISOの効果として重要なものに、「内部のレベルアップ」があります。間違えずに運用できれば、必ず期待できる効果です。6章の「資源の運用管理」における「教育・訓練」については、人事制度とのリンクを明確に意識して、力を入れると効果が期待できるでしょう。
ISOを取り入れたマネジメントで、人材教育・労務管理システムを構築し、就業規則・労働安全法の体系、賃金管理・人事考課制度をバランス良く運用していくことが可能です。
そうしないと肝心な効果が期待できません。企業の経営安定、そして雇用の確保に大きく寄与するものと期待しています。
『ISOと社内の他規程・制度との整合性』
今後のISOは、中小零細企業に波及することが予想されます。業績アップが至上の命題だとすれば、様々な課題の解決が望ましいでしょう。課題をクリアーするためにISOの規格を理解・活用し、営業戦略や人事・労務までも、まとまった有機的な取り組みが重要です。
そして実際の運用の中で、“継続的改善”を目指していきます。
それが社員のレベルアップ、会社のレベルアップにつながれば最高でしょう。
バラバラになりがちな様々な規程はISOで見事に統合できると思います。
「ISOの実際の作業」
ISOが仕事を文書化していくことはご存知でしょう。
マニュアルを作成するにあたり、大切なことは、「実際の仕事をISO規格に当て込んでいく」という作業です。ISOで要求している規格に振り回されずに、まず実際の仕事を整理します。その後規格と照らし合わせると、不足部分や修正部分が見えてきます。
新しい業務を行うのではなく、足りない部分や修正が必要な部分だけをやればいいという事を認識いただきたいと思います。
記録として要求されることも、会社であれば“ほぼ当たり前”のことであり、大部分の会社では実際に行っていることです。きちんとルール化されていないだけなので、そこを明らかにして徹底します。
足りない記録は日常行う業務に支障が出ないように、工夫した帳票を用意します。
次の工程に流していく記録が不十分なことが多いので、必要なものはまとめたり、複写やコピーを活用して、運用上のロスを避け、ツボを押さえた運用が可能です。
以下は作成時のポイントです。
- 自社社員の作成が大前提
- 文書丸投げは禁物
- 自社要員を育成
- 必要最低限の文書化にとどめる
- 文書の階層は少なく
- マニュアル以外は手順書で充分
- 書きたい文書より、読みたい文書
- 現場に合わせ、フローチャートやイラスト、デジカメでの写真挿入なども効果的です。
- 現場に置く
- 現場に合わせた教育・訓練が大事
また、現場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を、お奨めします。
それは、実際の仕事が効率的になり、意識改革に大きな効果があるからです。
何度も申し上げるのですが、ISOは、名刺にISO取得PRの「広告宣伝費」だけでは、もったいないです。ぜひ、システムの本質的な部分での理解を進め、業績アップのために活用してください。