GAFAも学ぶ!最先端のテック企業はいま何をしているのか
世界を変える「とがった会社」の常識外れな成長戦略
アメリカはもう古い!
世界1800社以上のテクノロジー企業と交流し、ビジネスの現場を見てきた専門家が、今や最先端といわれる中国企業の取り組みを紹介しています。
中国テック企業のビジネスモデル
シリコンバレーは、もはや世界のテック企業の最先端ではないそうです。実際、GAFAをはじめとするシリコンバレーのテック企業は、頻繁に中国の最先端テック企業を視察に訪れているといいます。そんな中国企業における最先端の事例とはどんなものなのでしょうか?
サービスの根幹に「エンターテイメント」がある
今や世界の最先端テック企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)を達成し、さらにその先を行っています。彼らに共通するのは、「ユーザー」を主役にしたカスタマーサービスを変革のフロントに置いていることでしょう。
その根幹には、単に商品やサービスを購入してもらうだけでなく、ユーザーに「楽しい!」と思わせる仕掛けがあります。憧れのインフルエンサーと直接つながれる高揚感、ランキング上位を目指す競争心・・・。こうした感動体験をユーザーにもたらす「エンターテイメント」の要素が必ずあるのです。
「楽しい」から、そのサービスを利用する頻度とアクセス時間が増えていきます。その分大量のユーザーデータが収集・畜積されるので、ユーザーの行動特性を可視化でき、サービスが改善され、ユーザー体験がさらに向上するサイクルを描きます。
このようなループを自動で高速回転させることで、これらのテック企業は「ユーザーが主役」のサービスを日々進化させています。
エンターテイメントが「ヒト消費」を加速させる
「エンターテイメント=ユーザーにとっての楽しさ」の追求によって大量のユーザーデータを獲得し、サービスを急成長させているテック企業には、ある共通の特徴があります。
その特徴を、著者はEX(エンターテイメント・トランスフォーメーション)と呼んでいます。このEXを実践している最先端企業の1つが、中国の小売ECプラットフォーム「ピンドゥオドゥオ」だそうです。同社は、EC利用者数で「中国ECの巨人」アリババグループを抜いた新興企業です。
同社の成功のポイントは、一定の購買者が集まることによって割安に商品を買うことができる「共同購入」にSNSを組み合わせ、エンターテイメントをつくり出した点にあるとしています。
We ChatをはじめとするSNSに、例えば「24時間以内に3人で買うと60%オフ」など、友人や知人に情報をシェアすることで、仲間を集める仕組みを設けました。さらには、ピンドゥオドゥオの側からも「○○さんもこれを買っていますよ」などと、スマートフォンに通知が送られているそうです。
仮にまったく知らない商品であっても、「友だちは今これを買いたいんだ」と誘われている感覚になり、共同購入に加わりたくなってしまうというわけです。そして、実際に共同購入に参加し、成立したらその友人から「ありがとう!」とメッセージが届き、さらに交流が深まるという、単なる買い物を超えた体験が得られると言います。
次第に「共同購入を成立させ低価格を実現する」こと自体がゲーム感覚になり、「今まで一緒に買ったことのない人を5人集めると…」「異なる靴のサイズを5種類そろえると…」などといった、様々な共同購入の「ミッション」がピンドゥオドゥオ上では日々生まれているそうです。
モノやサービスではなく「ヒト」に評価がつく
経済学の用語に「情報の非対称性」という言葉があります。
売り手が商品やサービスに関する情報を独占的に保有し、一方の買い手には情報が十分に知らされておらず、双方の間に情報格差が生じている状態のことです。とりわけ不動産や中古車など、一見しただけでは欠陥に気づきにくい商品や、医療サービスなどのように専門性の高い領域では、情報の非対称性が生じやすくなります。
世界のテック企業が運営するプラットフォームでは、この問題を解消しようとする動きが見られます。
例えば、中国の美容医療プラットフォーム「ソーヤング」は、インフルエンサーがユーザーと同じ目線に立ち、自身の施術体験を発信することで、ユーザーの疑問や不安を解消しています。
「おととい、まぶたのここを切りました。経過はこんな感じです」「唇にヒアルロン酸注射を打って1週間が経ちました」
インフルエンサーが施術の過程や結果を投稿する画像や動画は、ときに痛々しいものがあります。しかし、美容医療に興味のあるユーザーにとって、これ以上リアルで説得力のある情報はないことでしょう。
実際、豊富な情報をじっくり比較・検討することができるので、ユーザーの満足度は高いと想像がつきます。
評価は今や「モノ」や「サービス」ではなく「ヒト」につく時代だと言います。しかも、遠くにいる美容医療の専門家より、身近にいるインフルエンサーの方が多くの共感を集め、信頼を獲得することでしょう。
そのことはインフルエンサーにとってのモチベーションにもつながります。インフルエンサーは同社が提供する解析ツールを活用して、もっと有益な情報をユーザーに届けようとします。
「ほしい!」から「購入」までの流れを止めない
あなたが自宅で映画鑑賞していると、あるシーンで登場人物の部屋にあるソファに目が留まりました。
「このソファいいな」。そう思い、スマートフォンを映像にかざすと、そこに埋め込まれたタグが画面に現れ、それをクリックし、ソファの購入サイトに移動したら、購入ボタンをタップ。明日には自宅に届きます。あなたは「いい買い物ができた」と満足して、再び映画鑑賞に戻りました。
こんな未来が、現実になろうとしています。
今、映画の中に登場する商品を画像認識AIによって自動的にタグづけし、映画を観ながらその場で購入できるようにする実証実験が、ある中国テック企業のもとで進められているそうです。
認知から購買にいたる一連の消費行動において、少しでもフリクション(引っかかり)が生じると、今日の消費者は「購入」ボタンを押してくれません。その傾向は、とりわけ「Z世代」と呼ばれる若者世代に顕著に見られるそうです。彼らは日々、大量のコンテンツに接しながら、「いいな!」「ほしい!」と心が動いたら、その場ですぐ購入したいという欲求を持っているそうです。
「流れ」を止めない買い物体験をいかに提供できるかが、今日のマーケティングにおける勝負の分かれ目となっているわけです。
ライブ配信による「信用」と「エンタメ性」
では、シームレスな購入の機会を提供するために、世界のテック企業は何をしているのでしょうか?
キーワードは「動画ファースト」です。世界のコミュニケーションは、言語を中心としたものから動画による非言語コミュニケーションヘとシフトしています。それに加え、決済機能や配送機能が世界各地で整備されたことで、「動画×EC」のプラットフォームが成長しています。
その「動画ファースト」時代のトップランナーは「TikTok」です。若者世代は、わずかなすき間時間を見つけてはTikTokで15秒ほどのショート動画を「呼吸」するように視聴しています。
彼らにとっては、もはや15分のYouTube動画すら苦痛でしかありません。15秒の間に、彼らの琴線に触れるメッセージを届けられるかどうかが「流れ」を止めない買い物体験の成否を分けています。
中国の「ショート動画×EC」市場では、TikTokを猛追するライバルがいます。それが「クアイショウ」です。クアイショウはライブコマースに強みを持ち、ありとあらゆる商材がライブ配信を通じて販売されています。とりわけ目を引くのが、不動産や中古車といった高額商品です。
例えば、不動産販売を専門とするライバー(ライブ配信クリエイター)が、ある中古マンション物件をライブ配信で紹介します。それを、1万人のユーザーが同時に視聴しているのです。
その中には不動産鑑定士のようなプロもいて「その部屋の裏側は、実は汚れているのでは?」などとコメントで指摘を入れます。すると、ライバーはすかさず「そんなことはありませんよ」と実際にカメラを向けてその部屋の裏側を撮影します。そうしていくうちに、1人のユーザーが購入を申し出て、めでたく成約。ライブは終了します。
不動産のような、一見、ライブコマースとかけ離れているような商材がなぜ人気なのでしょうか?
それは、ライブ配信はごまかしがきかないため、結果としてユーザーの信用を得られやすいからと言われます。ライブコマースでは疑問に思った点もその場で明らかにしていき、買い手であるユーザーも信頼度の高い情報を得ることができます。
「フードデリバリー大国」中国で約7割のシェア
CNNIC(中国インターネット情報センター)の報道によりますと、中国国内におけるフードデリバリーの利用者は約4億7000万人(2021年6月末時点)と、全人口の実に3分の1にあたるそうです。
そのような「フードデリバリー大国」の中国で、市場の67.3%と圧倒的なシェアを誇っているのが「メイトゥアン」です。
2022年6月時点での時価総額は1496億ドルで、中国テック企業の中でテンセント、アリババグループに続く第3位です。
メイトゥアンのビジネスモデルで特筆すべきは、細かいセグメンテーションです。同社の口コミサイトでの評価ランキングは1~2km四方の範囲で常に並び替えが行われており、有名なお店でなくても上位にランクインされるチャンスがあります。
しかし、競合店がひしめく中で上位にランクインされるのは容易ではありません。そこで、メイトゥアンは他の飲食店の稼働率が下がる深夜や、定休日が多い曜日に営業していると、ランキングが上位に表示される独自のアルゴリズムを構築しました。
するとどうなるでしょうか。ライバル店の空白の時間を狙って深夜などにオープンする飲食店が増えたそうです。
そして、ユーザーのスマートフォンには「22時から半額!」といったプッシュ通知が頻繁に来ます。本当は「21時くらいに夕食を食べよう」と予定していたのに、「22時から半額なら、あと1時間待ってみよう」と思わず誘導されてしまうのです。
こうして、稼働率が下がる空白の時間帯にも多くの飲食店が営業するようになり、しかも店に行かずとも短時間で自宅まで届けてくれます。24時間すべての時間帯で需要と供給がうまくマッチングされ、「空白が埋まる」仕組みになっています。
「街の飲食店」も集まれば大手資本に対抗できる
個人経営の飲食店は、資金やマンパワーが乏しく、SNSを駆使するリテラシーも弱いため、どうしても大手資本の飲食店にはかないません。
しかし、この一軒一軒の飲食店が集まって、プロモーションや仕入れなどで協力し合えば、大手資本の飲食店に勝てるかもしれない――そんなアイデアを実現しているのが、「サイケイ」という中国の企業です。
サイケイは、飲食店が立ち遅れていたデジタル化の支援を行うマルチプラットフォームです。
これを導入すれば、自社ECも簡単に構築でき、リスティングなどの広告を出稿することもできます。
また、サイケイにはAIによる「自動マーケティング指導」があります。「10%値引きしたらもっと売れそうです」「このパッケージではあまり売れません」…。
このような機能が最初からついているので、予算だけ決めれば勝手に実行してくれのです。
さらに、メニューごとの販売数から、どの材料をどれだけ消費しているかも自動的に集計されます。そして、その情報はサプライヤーである農家側とも同期されており、サイケイに加入している他の飲食店と共同調達もできる仕組みになっています。
こうして仕入れを一本化することで、タイムリーに、かつ安く材料を調達することができます。
このサイケイを活用し、売上を伸ばす飲食店が増えており、加盟店は実に200万店に上るそうです。
会社に対する「不満」もビッグデータ化
零細の飲食店が集まることで得られるもう1つの武器が「データ」です。
調達管理などのデータが集まり、ビッグデータになることで、仕入れやメニュー開発などの業務を最適化することができます。
このようなビッグデータ化は、企業の人事・労務管理の分野でも実践例があります。
対象となっているのは、従業員の会社に対する「不満」です。
一般的には従業員は会社との関係において弱い立場にあり、不満や苦情、改善要望があっても表明しにくいことが多々あります。
このように、表に出しにくい従業員の不満や苦情を「チャット」の形で収集するのが「アスクボット」というチャットツールです。
チャットボットに不満を入れると、AIが解析し、自動で回答できるものは回答し、そうでないものは人事・労務のセクションに改善のアクションをとるよう呼びかけます。チャットで寄せられるクレームの6割はAIの自動回答で対応可能だそうです。
企業側が従業員の要求にリアルタイムで対応し、従業員のロイヤリティを改善するだけでなく、クレーム対応から解放されるから、人事・労務部門の担当者のロイヤリティも高まることでしょう。
恐るべし、最先端といわれる中国企業・・・
書籍案内
- GAFAも学ぶ!最先端のテック企業はいま何をしているのか
世界を変える「とがった会社」の常識外れな成長戦略 - 成嶋祐介(なるしまゆうすけ)著 東洋経済新報社
一般社団法人深.市越境EC協会日本支部代表理事。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。株式会社成島代表取締役。 - 2023年6月13日発行/301頁/2,090円
主要目次
- 1章 「便利」から「楽しい」に価値基準がシフトしている
- 2章 ユーザーと企業が「共犯関係」を築いている
- 3章 「五感を刺激する」買い物体験で購買意欲を加速させている
- 4章 24時間365日、需要と供給の出会いを生み出し続けている
- 5章 「信用の見える化」で共通の評価軸を立てている
- 6章 「オンライン」と「オフライン」の境界が取り払われている
- 7章 定価にこだわらず利益を最大化する値付けをしている
- 8章 小さな課題や悩みが1か所に集まり、大きな価値が生まれている
- 9章 「PCレス戦略」で専門性が民主化されている
- 他1章
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