「働き方改革」に向けての具体例(小野寺均氏

2020年1月22日

小野寺均氏の「働き方改革」に向けての具体例

小野寺均氏の「働き方改革」についての意見

 前回の記事で、当社でお迎えしたコンサルタント・小野寺均氏の「働き方改革」に向けての考え方をご披露していますが、その続編です。今回は踏み込んだ具体例になります。

(前回の記事 → 「働き方改革」についての小野寺均氏の考え方

6.生産性向上の目標設定

 私は生産性指標自体については目標値を設定しませんでした。予算の数値達成だけでもひいひい言っているのに、生産性指標に目標値を設定すると部門長や管理職が窮屈に感じると思ったからです。生産性指標は右肩あがりに継続的に向上させていけばよいと言っていました。
 ただ、自主的に目標値を設定する部門長もいましたが、それは自由にさせておきました。

 私が言っていたのは生産性指標を右肩上がりさせるための打ち手を明確にし、打ち手の進捗を把握するKPIの設定でした。

 例えば付加価値を増やすためにはトップラインの売上を増やさなければなりませんが、その打ち手が商談件数増であれば顧客の訪問回数をKPIとするというようなことです。こういうKPIは部門長の自主性に任せていました。人間は自分で決めたことには意欲的に取り組むものだからです。

 ただし、今回は「働き方改革」という旗印が立っていますので、労働時間を削減させるようなKPIは不可欠だと思います。
 人時生産性(付加価値÷労働時間)を向上させるためにも労働時間のコントロールは必須になります。

それでは、労働時間の目標はどう立てるか?

  1. 労基法、36協定を遵守していない企業は、それを守ることが最優先の目標になると思います。もちろん、サービス残業は論外で、残業した分はきちんと支払うことは当然です。私の経験では残業した分をきちんと支払うということだけでも、求人には有利になりました。
  2. すでに法順守している企業は、さらに労働時間を削減するのを目標にするのか、あるいは休暇取得日数を目標にするのか、このへんは各企業の判断になると思います。

 上記1.であっても2.であっても、目標とする労働時間の総数は出てきますので、その労働時間内に納めるように具体的な打ち手を考え、KPIを作成する必要があります。

7.労働時間削減のための打ち手(例)

 労働時間削減=残業時間削減のために私が行ったことを参考までに記します。
 上記6で記したように会社として許される残業時間がはっきりしましたら、それを部門ごとにプレークダウンしました。すなわち、今月はこの部門はトータルで何時間まで残業してよい(何時間以上は残業してはいけない)と明示し、次に部門の構成員一人一人の残業時間にブレークダウンします。
 これによって月単位での各人ならびに部門トータルの残業時間の目標値が明らかになります。

 次にマネージャが部下各人の週単位の残業計画を前の週の金曜日までに立て、上司である部門長に報告させます。
 例えば部下Aは月曜日、火曜日は残業時間ゼロ、水曜日は2時間、木曜日・金曜日は3時間の残業を計画しているという具合です。
 部下Aのその月の残業目標は既に出ていますので、その中に納まるように週単位の残業計画を立てる必要があります。

 部下は月曜日から金曜日まで実際の残業時間(金曜日は見込み)を、その週の金曜日にマネージャに提出し(勤怠システムで数値が分かれば、マネージャがシステムで数値を収集)、マネージャは計画と実績見込みの差を把握して翌週の各人の残業計画を立てます。

 残業は事前にマネージャの承認が必要と言っていても、マネージャも繁忙なので承認が徹底されないというのが実態でした。そこでせめて週単位であればマネージャも部下の残業に気が回るだろうと思って導入した施策でした。

 週単位の残業計画をマネージャが上司である部門長に提出させることで、この仕組みを徹底しました。
 このやり方を行ったことによって、マネージャは部下の繁忙度を事前に把握でき、部下間で業務分担の事前調整が可能になります。また、マネージャ以下チームの皆で仕事の進め方を議論する機会にもなります。

 このやり方は残業時間のコントロールにかなり成果がありました。ただし、マネージャや部下、部門長に負荷がかかるのも事実なので、ある程度定着した段階で休止にしました。
 さて、この例での打ち手とKPIは何になるでしょうか?

 打ち手は「週次での各人の残業計画事前作成と実績把握」ということになりましょうか。
 KPIは、施策導入の初期であれば「マネージャは毎週末、各人の残業計画を部門長に提出する」ということでも良いと思います。私が避けたいと思うKPIは、残業実績を事前の計画値に納めるというようなものです。

 これはその会社の社風等に左右されるので、このようなKPIでも上手くいく会仕はあると思いますが、会社によってはサービス残業を誘発することになる恐れがあります。私は計画と実績の数字を部門ごとにまとめて、各部門長にオープンにしました。
 そうすれば、こちらが黙っていても部門長は自分たちで何とかするものです。

 残業実績が計画に比べて少ない場合は、それは好いことなのですが、むしろサービス残業をしていないかとチェックしたほうがいいかもしれません。

8.浮いた残業手当の使い方

 前回の記事「3.従業員の立場からの働き方改革」で述べたように、残業時間の削減は従業員の収入減少になります。浮いた残業手当分がすべて会仕の利益になるとしたら、従業員は嫌になると思います。

 そこで、会仕としては上記6のように年間の残業時間目標値を設定した場合、残業手当の削減分も見えてくるわけですから、削減分全額を賞与の原資に追加すると従業員に宣言したらどうかというのが、私のアイデアです。

 賞与の原資が増えるということは、その期間の成果に応じて支払う報酬額が増えるということです。したがって高い成果を上げた従業員は残業手当の削減以上に賞与をもらうことができます。また、パフォーマンスが低い人は残業手当の削減分を丸ごと貰うことができないということになります。
 こういうことまで従業員に説明したほうが良いと思います。

 削減分全額を従業員に還付するというと躊躇する経営者の方もいるかもしれませんが、次の理由から悪い施策ではないと考えます。

  1. そもそもそれまで支出してきたコストなので会社が損をするという訳ではない
  2. 従業員のモチベーションアップが期待できる
  3. 従業員がやる気を出すことで生産性向上が期待できる
  4. 生産性向上分(翌年の人件費アップ分を除いた分)は会社の利益となる

 私の経験から「働き方改革」について考えたことを書きましたが、業種業態、会社の規模によって最善の策というのは違ってくるかと思います。
 長文になりましたが一つの参考として読んでいただければ幸いです。

参考リンク

小野寺均氏経歴:日本経済新聞「人事、NECファシリティーズ(2016.06.20)」
https://www.nikkei.com/article/DGXLMSJP10101_Q6A620C1000000/

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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