HACCP義務化と知っておきたい食品衛生管理のポイント

2020年1月22日

HACCP義務化と知っておきたい食品衛生管理のポイント

2018年6月 15年ぶりの改正食品衛生法成立

 2018年(平成30年)6月、15年ぶりとなる食品衛生法が改正されました。
 改正された食品衛生法では、原則としてすべての事業者が、食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するために「HACCP(ハサップ)に基づく衛生管理」について計画を定めなければならないこととされています。

 ただし、飲食業などの一定の事業者については、その取り扱う食品の特性等に応じた「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」でよいとされています。

 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」については、業界団体が作成した業種ごとの「手引書」に基づいて実施すればよいとされています。
 HACCPによる衛生管理の制度化は、公布から2年以内に施行され、さらに1年間の猶予期間が設けられることとなっていますが、早めの準備をお勧めします。

 当社にもHACCP制度化に伴い、ISO22000:2018の導入に向けた構築コンサルの依頼が来ました。現在はその支援に向けて準備に余念が無い状態です。

 以下、改正食品衛生法で重要なHACCP制度化についてご紹介します。

HACCPとは

 HACCPとは、1960年代に米国で宇宙食の安全性を確保するために開発された食品の衛生管理の方式です。Hazard Analysis Critical Control Pointの頭文字からとったもので、「危害分析重要管理点」と訳されています。

 食品の国際化を背景に、食べ物の安全性を確保するには、その工程・加工・流通・消費というすべての段階で衛生的に取り扱うことが必要となり、食品製造行程中に危害防止につながる重要管理点をリアルタイムで監視・記録していく「HACCPシステム」の考え方が国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関である食品規格(Codex)委員会から発表され、各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。

 世界的に導入が進められている食品衛生管理システムの一つが「HACCP」ということになります。

1.HACCP制度義務化の経過

 2016年のはじめに、食品関連の企業に対して、段階的な義務化が報道されたHACCPでした。同年3月には、厚生労働省が「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会」を開始しました。

 そして2018年6月7日には改正食品衛生法案が衆議院にて全会一致で可決。同年6月13日には食品衛生法の一部を改正する法律が公布され、HACCPの制度化が決定しました。

2.HACCP制度化の対象者

 原則として食品の製造・加工・調理・販売などを行うすべての事業者が対象です。
 ただし、すべての事業者が完璧に取り組むことは難しいことから、規模や業種などを考慮した一定の事業者については、取り扱う食品の特性などに合わせた衛生管理とすることになっています。

 実際に法令が効力を持つ「施行」までの期間は、公布から2年を超えない範囲とされています。つまり遅くとも2020年6月までには、「HACCPに基づく衛生管理」または「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施できるようにならなくてはなりません。施行までに一般衛生管理に加えHACCPに沿った衛生管理について意識していく必要があります。

3.何をしておけばいいのか?

 HACCPは、入ってきた食材がどう保管され、調理、提供されていったのかを、継続的に監視・管理するための手法です。そこで今からしておける対策としては、「記録を付ける」習慣づけといえます。

 食品を取り扱う事業者の種類は様々です。食材の管理方法や調理方法も、業態によってそれぞれ違いがあります。
 そこで、様々な業界団体からHACCPを取り入れた衛生管理の手引書が公開されています。厚生労働省のサイトに、事業者ごとの手引書が公開されているので参考にしたいところです。

 HACCP実施の前提条件になるのは、設備管理や清掃・消毒などの基本的な「一般的衛生管理」です。
 例えば冷蔵庫の温度チェックや保守管理も、一般衛生管理に含まれます。そのため、これらを適切に行ったうえで、材料・製造方法ごとに重点管理点を設定するのが、HACCPを導入する第一歩になります。

4.難しくないが面倒な記録・保管

 「冷蔵庫の温度チェック」と言っても、日々の業務の中で毎日継続していくのは意外に大変です。習慣化してしまえば、こちらのものですが、習慣化するまでが一苦労になることが予想されます。
 入れ替わりの激しいパート・アルバイトたちにも周知・徹底させなければいけません。

5.必ずしも設備や施設を更新する必要はない

 HACCPを導入するからといって、必ずしも設備や施設を更新する必要はありません。
 HACCPの導入にかかる一番のコストは、「人的コスト」です。プランの作成・教育・指導に加えて、運用をしていくのは、現場で働く「人」になります。

 「人が作業し、記録をして、保管をする」。これは未来永劫に続いていくサイクルです。
 現場の負担を少しでも軽減させるためには、通信技術を活用して、自動化できるものは自動化させるという選択肢があります。常時一台のパソコンで一元監視・温度管理を行うことができるシステムもあり、人手不足だからこそ、管理をする人の負担削減につながる設備投資も解決策の一つです。

HACCP導入のメリット

 HACCP導入には手間やコストがかかりますが、上手に利用できればコスト以上の効果を得ることが可能となるでしょう。
 以下、HACCPを導入するメリットについて記述します。

6.リアルタイム・高水準で安全性確保を実現するHACCP

 「HACCP」は「衛生管理手法」のことであり、原材料の受け入れから製品になるまで(食事提供をするまで)の各工程において、あらかじめ「微生物などによる汚染」や「異物の混入」などの危害を予測します。
 そして危害を防止するために管理すべき重要なポイントを特定して、継続的に監視・記録をしていきます。

 工程ごとに危害となりうる要因を排除するための管理の手順が定められていることや、継続的に監視や記録をしていくことから、従来の抜き打ち検査と違って、リアルタイムかつ高い水準で安全性が確保できるシステムだと言われており、導入が推奨されているわけです。

 しかし、HACCPを導入するにはしくみや管理体制を作る必要があり、導入時そして導入後の運用において「手間が増えるだけ」と思われがちです。
 しかし、実はHACCP導入によって新たに生まれるメリットもあります。

7.HACCP導入の2つのメリット

 HACCP導入によって生まれるメリットは、大きく分けて2つあります。

1) 業務改善の機会を得る

 HACCP導入に向けては、「7原則12手順」に則って運営方法を決定していくことになります。この過程では、受入から製品の出荷(あるいは食事提供)までの流れを工程ごとに書き出したり、現場での人とモノの動きを確認したり、工程ごとに発生しうる危害要因を挙げてどのように管理するべきかを考えていきます。
 こうした機会を持つことで、改めて普段の工程を確認したり再検討して、ムダな作業を省略をすることが可能になります。

2) 有事の際に早急な原因究明ができる

 食品関係で働いている以上、食中毒などが起こらぬよう細心の注意を払わなければいけません。営業停止や廃業も決して他人ごとではありません。

 HACCPの導入は、有事の際に早急な原因究明ができる点にも役立ちます。その理由は、衛生管理方式が「ファイナルチェック方式」から「プロセスチェック方式」に変わることにあります。

  • ファイナルチェック方式
    従来の衛生管理方式であり、完成品に対してチェックを行うもの
    出荷品全体をチェックすることなく一部のサンプルのみをチェックするため、出荷してから異物混入が判明したり、最悪の場合はその食品を食べた方が体調不良を訴えてはじめて食品が危険な状態であったことが明らかになることもある
  • プロセスチェック方式
    HACCPに準拠した衛生管理方式であり、工程ごとに食品の安全性を管理するもの
    食品の製造過程の時点で異変があった際に、すぐに気付き排除することで、危険な状態の食品を出荷・提供してしまう事を防ぐことができる

 こまめな監視や管理、記録を続けることは容易なことではありません。
 しかし、HACCPを導入してチェック方式を変え、運用を続けることは、結果的にリスクヘッジや自分たちの身を守ることに繋がります。

8.衛生管理の強化と業務効率化を実現

 HACCPは、導入にあたってこれまでの工程の振り返りや洗い出しが必要となる点や、こまめな記録・管理が必要な点で確かに手間は掛かります。
 しかし、衛生管理の強化や業務効率化の観点から見たメリットを実現できれば、そこに掛ける労力以上に有用だと言えるのではないでしょうか。

参考リンク

厚生労働省:食品衛生法の改正について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html

厚生労働省:HACCPポータルサイト
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html

厚生労働省:HACCP導入のための参考情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161539.html

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