タクシー会社大量解雇は「美談」ではなかった

2020年5月5日

タクシー会社大量解雇は「美談」ではなかった

ロイヤルリムジングループ従業員約600名解雇ニュースが大きく報じられた

 2020年4月8日、東京都内を中心にタクシー事業を展開するロイヤルリムジングループが、新型コロナの影響による経営状況の悪化のため、グループ会社の従業員約600名を解雇するというニュースが大きく報じられました。

東京のタクシー会社、全乗務員600人解雇へ 自粛影響
https://www.asahi.com/articles/ASN486KGGN48ULFA03C.html

 会社側が「休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断した」「感染拡大の影響が終息すれば再雇用したい」などと説明したため、世論は会社の対応を好意的に受け止めたようでした。
 当方でも、「従業員のことを考えた、会社の良い判断」というような反応に、同様の感想を持っておりました。

 しかし実際には、いくつもの問題点がみえてきたようです。

実態としては「退職勧奨」の形式か?

 従業員たちによれば、会社から事業を一時休止する旨が突然発表され、配布された退職合意書にサインするよう求められたのだといいます。
 「解雇」と報道されていましたが、実態としては「退職勧奨」の形式が取られたようです。

 いわゆる、特定理由離職者で扱われない可能性があるわけです。

 会社が解雇(一方的な労働契約の解約)をする場合、少なくとも30日前に予告する必要であり、即時解雇の場合には30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが義務づけられています。

義務を履行せずに労働者不利益か

 そうした労働法で義務付けられた行為を履行せずに、労働者側に不利益がはびこっていた可能性があるわけですね。
 ブラックな会社特有の状況といいますか、労働者を使い捨てにするような施策だった可能性が強く、今後の動向が注目されます。当該の問題点は原文記事を転載してご紹介しておきます。

タクシー会社の大量解雇は「美談」ではない 労働者たちが怒っているわけとは?

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200412-00172870/
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者
2020/4/12(日) 12:15

 先日、東京都内を中心にタクシー事業を展開するロイヤルリムジングループが、新型コロナの影響による経営状況の悪化のため、グループ会社の従業員約600名を解雇するというニュースが大きく報じられた。

 会社側が「休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断した」「感染拡大の影響が終息すれば再雇用したい」などと説明したため、世論は会社の対応を好意的に受け止めたようだ。「従業員のことを考えた、会社の良い判断」というような反応が多くみられた。

 しかし、私たちの労働相談窓口には、その後、解雇を通告された従業員から次々に相談が寄せられている。実際に話を聞くと、いくつもの問題点がみえてきた。

 従業員たちによれば、会社から事業を一時休止する旨が突然発表され、配布された退職合意書にサインするよう求められたのだという。「解雇」と報道されているが、実態としては「退職勧奨」の形式が取られたようだ。

 会社が解雇(一方的な労働契約の解約)をする場合、少なくとも30日前に予告する必要であり、即時解雇の場合には30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが義務づけられる。

 しかし、退職(合意にもとづく労働契約の解約)の場合、このような義務は生じない。解雇を退職にすり替えるのは「ブラック企業」の常套手段であり、会社は、労基法の「労働者保護の規定」をかいくぐることに成功しつつあるようだ。

 再雇用の約束についても、再雇用される時期が不明確であり、履行される保証はない。仮にそのような合意を交わしていたとしても、法的な有効性は定かではない(しかも、再雇用を約束して雇用保険を受けることは認められず、同社の労働者は雇用保険を受けられない。

 アメリカの「レイオフ」と同じで合理的なのだ、との意見も見られるが、日本では職場に戻す制度がなく、アメリカのように戻れる保障もない。また、「戻れる人と戻れない人」をアメリカでは労組があらかじめ決めている場合が多いが、日本にはそのルールもなく、仮に復職させる際にも、会社の側が復職させる人を「選別する」形になるだろう。

 さらに、戻すときには「元の労働条件」ではなく、低い賃金に買い叩かれる可能性も否定できない。これらについてもし何かの約束をしてたとしても、それが法律上有効になるのかは不透明だ。つまり、「何の保障もない」のである。

 さらに、従業員のなかには、勤務期間が短く、そもそも失業手当の受給要件を満たしていない者さえいたという。そのような当事者には「美談」どころか、解雇予告手当不払いの、不当解雇と受け止められても仕方がない。

 そして、何よりも問題なのは、今後、類似した解雇や退職勧奨が全国に広がる恐れがあることだ。すでに私たちのもとには、この手法を模倣した企業に従業員全員が解雇されたという相談が寄せられている。

 この一件は、断じて「美談」として終わらせてよい話ではない。

自由な意思の形成を阻む不当な退職勧奨の恐れ

 今回のロイヤルリムジングループの対応について、2つの観点から検証が求められる。

 一点目は、退職の合意が従業員の自由な意思にもとづくものであったかという観点だ。事業を休止することを伝えて従業員を動揺させた上で、その心理につけ込み、不利な内容の退職合意書にサインさせていないかを検証する必要がある。

 「即時退職、金銭的補償なし」という退職条件は、考えられうる「最低の退職条件」である。経営状態が悪く、人員削減が必要な場合でも、退職金を上積みするなど、労働者が納得できる条件を提示した上で「辞めてもらう」のが通常だ。

 退職の条件について従業員と誠実に話し合うことなく、また、適切な情報を与えることもなく、辞めなければならないと思い込ませて、退職合意書にサインさせたのだとすれば、労使間の情報力格差を利用した不当な退職勧奨だといえよう。

 確かに、会社が主張するとおり、休業状態が長引いてから退職し、失業手当を受けた場合、受給できる手当の額が下がってしまうということはあり得る(被保険者期間のうち、最後の6か月の賃金の総額をもとに計算されるため)。

 だが、私たちが話を聞いた複数の従業員によれば、会社は従業員に対して失業手当等に関する具体的な情報を与えた上で判断を委ねたわけではなく、また、判断をするための時間的猶予を与えることもなく、その場でサインさせようとしたようだ。

 これは労働者の自由な意思の形成を阻害するものであり、正当なやり方とは言えない。失業手当や再雇用といった労働者にとって有利と思われる話を持ち出して、退職に合意するよう誘導した点についても、それが労働者の自由な意思にもとづく合意だといえるのかが検証される必要があるだろう。

 実際、納得をしていない従業員が、撤回を求めて団体交渉を始めている。

参考リンク

運転手が「全員解雇」の撤回を要求 都内のタクシー会社(2020年4月11日 朝日新聞DIGITAL)
https://www.asahi.com/articles/ASN4C722JN4CULFA00F.html

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