8 運用

8.1 運用の計画及び管理

 ・製品・サービスの提供に関する要求事項を満たすため、並びに箇条6で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを計画し、実施し、管理する。(箇条4.4参照)

  • a. 製品及びサービスに関する要求事項の決定
  • b. プロセスとサービスの合否判定に関する基準の設定
  • c. 製品及びサービスの要求事項に必要な資源の決定
  • d. b)の基準に従ったプロセス管理
  • e. 以下の目的のための文書化した情報の決定(determining)と維持及び保持
    • ①プロセスが計画どおりに実施されたという確信をもつ
    • ②製品・サービスの要求事項への適合を実証する

・計画のアウトプットは組織の運用に適したものであること。

・計画した変更を管理、意図しない変更によって生じた結果をレビュー、有害な影響を軽減する処置。

・外部委託したプロセスを8.4に従って管理。


解説

■製品・サービスの実現における計画を具体化して、以降の箇条8各項の展開を計画に従ったものとし、結果に応じてPDCAを廻すことができるようにする基本的な要求事項である。

■箇条6による計画(リスク及び機会、品質目標、変更の計画)を4.4(QMS及びそのプロセス)に従い、箇条8で具体的に展開することが示されている。

■アウトソース管理の要求は箇条8.4に従うことが新たに示された。

■“製品・サービス実現の計画”にあたって、規格はa)~e)のうち該当するものについて明確化することを求めている。

■a項では、製品・サービスで実現すべき特性及び要求事項、例えば、製品規格、サービス仕様などがある。

■b項では、製品・サービスの実現又は/及び実現後の製品・サービスの評価に必要な検証、妥当性確認、監視、測定、検査及び試験活動、並びに合否判定基準を明確にしておくことを規定している。

■c項では、製品・サービスの実現上必要と判断される人、モノ、資金、資材、設備、作業環境などのリソースなどを明確にしておかなければならない。

■d項では、製品・サービスの実現に必要/特有なプロセスの管理方法を明確にする。

■e項では、製品・サービス実現のプロセスとその結果の要求事項への適合を実証するために必要と判断された文書化した情報を決定。ここで決定された文書化した情報は管理対象となる。

■変更管理の要求が示された。想定外の突然の計画変更に対しても、変更によって生じた結果をレビューし、必要であれば処置をすることが求められている(8.5.6参照)。


文書、記録例

 「事業計画書」、「QC工程表」、各種「規程・手順書」など。

8.2 製品及びサービスのための要求事項の決定

8.2.1 顧客とのコミュニケーション

 顧客とのコミュニケーションを図るためのプロセス。

  • a. 製品及びサービスに関する情報提供
  • b. 引合い、契約若しくは注文処理、又はそれらの変更
  • c. 苦情を含む、製品・サービスに関する顧客からのフィードバックの取得
  • d. 顧客所有物の取扱い又は処理
  • e. 関連する場合には、不測の事態(contingency)に関する特定の要求事項

解説

■引き合いから製品サービスの提供までの、全ての段階において、顧客とのコミュニケーションを図るプロセスが求められている。

■a)項は、新製品・サービスの情報、及び8.2.2項で明確化された内容の変更に関連する製品・サービス情報である。

■b)項は、製品・サービス要求事項の受発注に関連する情報、及び変更情報である。

■c)項は、製品・サービス要求事項に関連する問合せ、意見、要望、感謝、苦情・クレーム情報である。

■d)項は、顧客所有物に関する情報である(8.5.3参照)。

■e)項は、不測の事態に関する特定の要求事項の情報である(例:受注の急増、災害時対応)。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、「営業マニュアル」、「顧客支給品管理手順」など。

8.2.2 製品及びサービスに関する要求事項の明確化

 顧客に提供する製品・サービスに関する要求事項を明確にするため、以下の事項を確実にする。

  • a. 以下の事項を含む、製品及びサービスの要求事項を定める
    • ①適用される法令・規制要求事項
    • ②組織が必要とみなすもの
  • b. 提供する製品及びサービスに関する主張(claims)を満たすことができる

解説

■引き合い前の、前段階で実施すべき要求事項である。

■a)項は、コンプライアンスに対するプロセスの明確化が考えられる。

■b)項は、組織が製品・サービスに対して自分達として(約束できることを)主張することである。例えば、製品特性、サービスエリア、納期、等々の明確化がこれにあたる。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はない。

8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー

8.2.3.1 コミットメント前のレビュー

 顧客に提供する製品・サービスに関する要求事項を満たす能力をもつことを確実にし、製品・サービスを顧客に提供することをコミットメントする前に、以下の事項を含めレビューすること。

  • a. 引渡し後の活動に関する顧客の要求事項
  • b. 指定された用途又は意図された用途に応じた要求事項
  • c. 組織が規定した要求事項
  • d. 製品及びサービスに適用される法令・規制要求事項
  • e. 以前に提示されたものと異なる契約又は注文の要求事項

・契約又は注文の要求事項が以前に定められたものと異なる場合、それが解決されていることを確実にする。

・顧客がその要求事項を書面(documented statement)で示さない場合には、受諾する前に確認する。


解説

■前項の8.2.2では顧客に対する要求事項の明確化が主題であったが、本8.2.3.1項では顧客に対する製品及びサービスの要求事項の確認行為(レビュー)を求めている。“安請け合いしない”こと、即ち、要求事項を組織として実現可能であることを顧客に対して約束するために必要な確認、並びに確認結果を踏まえて顧客に確約の態度表明をするための要求事項である。

■組織は実質的に顧客と約束/契約を交わす前に、要求事項が組織内で具体的に把握、理解され、その実行に無理がない(約束が守れる)事を確実にしておくことが必要となる。

■そのためにレビューすべき最低条件が規格要求のa)~e)項に当たる。

■a)項は、必要に応じて「要求内容一覧」、「仕様書」、「見積書」、「顧客要求事項確認シート」などの内容をレビューすることなどがこれにあたる。

■b)項は、指定された又は意図された用途が予め分かっている場合、例えば、製品の使用目的、提供されたサービスの使われ方、及びそれらに対する環境条件などが分かっている場合、それら要件への対応内容の明確化などが該当し、また、都度顧客からの要求/指示はされないが常識的に達成されていなければならないような“当たり前品質”(例:汚れていない、持ちやすい、対応がよい)もこれに含まれる。

■c)項は、組織が社内自主基準やルールなどを設定している場合に追加要求事項に加えるなどが該当する。

■d)項は、法令・規制要求事項である。

■e)項は、要求事項の変更管理、即ち要求事項に変更、追加、削除などが生じた場合、顧客との合意(解決)など、変更に対して問題がないことを確認することが該当する。

■以上の確認は顧客に対して要求を受諾する前に行わなければならない。


文書、記録例

 箇条8.2.3.1では、文書化された情報の要求はないが、8.2.3.2において、8.2.3全体としての文書化された情報が要求されている。

 「要求事項明確化/レビューチェックリスト」、「受注内容確認記録」、「受注確認書」、「要求内容一覧」、「仕様書」、「見積書」、「顧客要求事項確認シート」、「契約書」、「企画書」、「計画書」、「図面」、「変更連絡表」、「ネット通販の受注記録」、「コールセンタの受信通話記録」など。

8.2.3.2 文書化した情報の保持

 該当する場合には、必ず(as applicable)、以下の事項に関する文書化した情報を保持する。

  • a. レビューの結果
  • b. 製品及びサービスに関する新要求事項

解説

■確認した内容・結果は、取られた処置があればそれも含めて、処置の文書化した情報として管理しなければならない。

■要求事項に変更があった場合、「契約書」、「企画書」、「計画書」、「仕様書」、「図面」など、関連する文書化した情報が改訂更新され、管理されていなければならず、また当該変更内容は関連する部門、要員に理解、徹底されていなければならない。関連する部門、要員への理解、徹底は特に大切で、これが不充分であれは変更内容の対応は難しい。

■「該当する場合(as applicable)」は、該当する場合には必ず実施しなければならない。


文書、記録例

 箇条8.2.3.2において、8.2.3全体としての文書化された情報が要求されている。

 「受注確認書」、「要求内容一覧」、「仕様書」、「見積書」、「顧客要求事項確認シート」、「契約書」、「企画書」、「計画書」、「図面」、「変更連絡表」、「ネット通販の受注記録」、「コールセンタの受信通話記録」など。

8.3 製品及びサービスの設計・開発

8.3.1 一般

・以降の製造及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し、実施し、維持すること。


解説

■本箇条は、設計・開発の適用を求めた新しい箇条である。

■製品及びサービスの設計・開発プロセスの定義付けが、何であるのかの全体像を表している。

■ISO9000:2005年版では「要求事項を、製品プロセスまたはシステムの規定された特性または仕様書に変換する一連のプロセス」であったが、ISO9000:2015では「対象に対する要求事項を、その対象に対するより詳細な要求事項に変換する一連のプロセス」に変更となった。これによって、設計・開発の概念は拡大された。

■2015年版では、箇条8.2「製品及びサービスのための要求事項の決定」で明確にした要求事項を「より詳細な要求事項に変換するプロセス」が存在すれば、そのプロセスは設計・開発にあたると解釈できる。

■多くの組織において、製品及びサービスの設計・開発は存在する。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、「設計開発プロジェクト管理規程」など。

8.3.2 設計・開発の計画

 以下の事項を考慮すること。

  • a. 設計・開発活動の性質(nature)、期間(duration)及び複雑さ(complexity)
  • b. 要求されるプロセス段階。適用される設計・開発のレビューを含む
  • c. 要求される、設計・開発の検証及び妥当性確認
  • d. 設計・開発プロセスに関する責任及び権限
  • e. 製品・サービスの設計・開発に必要な内部・外部資源
  • f. 設計・開発プロセスに関与する個人及び関係者間のインターフェースの管理の必要性
  • g. 設計・開発プロセスへの顧客及びユーザーグループの参画の必要牲
  • h. 以降の製品・サービスの提供に関する要求事項
  • i. 顧客及びその他の密接に関連する利害関係者に期待される、設計・開発プロセスの管理レベル
  • j. 設計・開発の要求事項を満たしていることを確認するために必要な文書化した情報

解説

■本項は、顧客関連プロセスの結果をベースとして、設計・開発計画及び計画の管理を確実なものとするための設計・開発プロセス及び責任、役割分担の明確化に関する要求事項である。

■a)項は、設計内容に応じた、人員の配置や期間(予算、工数)の明確化が求められている。

■b)項は、設計・開発の段階を定めることを求めている。一般的に、設計・開発には、構想設計/試作設計/量産設計/量産試作/量産などの段階がある。

■c)項は、b)項で明確化した各段階に応じた必要な確認行為を具体化して計画化(実施タイミングを決める)することが本項の要求事項である。例えば、各設計途中または終了後の検証、量産品における妥当性確認等々、同様に組織の業態又は製品・サービスの内容に合わせて明確化することを要求している。なお、これら確認行為は一回のみではなく、必要に応じて繰り返される。

■d)項は、b)項で設定した設計・開発の各段階の完成度を高める必要があるが、次の段階に進める判断、決定は組織として定められた責任・権限に基づいて行う必要がある。また、レビュー、検証、妥当性確認実施者の技術的、技能的背景からの資格・経験等も含めて考えることが望まれる。

■e)項は、要員の力量や設備の能力に関して考慮する事項である。例えば、要員の設計技能・知識・経験、設計ツール(CAD、シミュレーションソフト等)、試験設備、新規の製造設備、予算、外部設計業者、第三者評価機関などがある。また、設計・開発を外部委託することを選択しても良い。但し、外部委託した部分の設計責任においても自ら負うことが必要である。

■f)項は、“設計・開発に関与するグループ間のインターフェースを管理すること”を求めているが、ここでのグループは機械設計、電気設計、ソフトウェア設計などの部門内グループ、また、営業部門、購買部門、製造部門、サービス部門などの部門外グループが考えられる。 いずれの場合もコミュニケーション窓口を明確化し、やり取りされた内容、決定事項を文書等で確 実に残して共有化することが肝要である。

■g)項は、設計段階での顧客関与の必要性を考慮することを求めている。

■h)項は、次のプロセス(製造工程、購買工程など)から製品設計に課題がある場合を考慮することを意昧している。

■i)項は、設計段階において、顧客の期待を考慮することを求めている。(箇条8.3.3.dに関連)

■j)項は、設計・開発に関して、どのような文書化した情報が必要かを考慮することを求めている(8.3.3、8.3.4.f、8.3.5を参照)。


文書、記録例

 箇条8.3.2においては、文書化した情報の必要性の考慮を求めており、具体的な文書化した情報の要求は、8.3.3以降で要求されている。

 「設計開発プロジェクト管理規程」、「設計開発プロジェクト計画書」など。

8.3.3 設計・開発へのインプット

・次の事項の決定。

  • a. 機能及びパフォーマンスに関する要求事項
  • b. 以前の類似の設計・開発活動から得られた情報
  • c. 法令・規制要求事項
  • d. 組織が実施することをコミットメントしている標準又は規範
  • e. 製品及びサービスの性質によって起こり得る失敗の結果

・インプットは設計・開発の目的に対して適切で、漏れがなく、曖昧でない。

・インプット間の相反(conflict)は、解決する。

・インプットに関する文書化した情報を保持(記録類)する。


解説

■設計・開発に必要な製品・サービス要求事項を含む、全ての要求事項を明確にし、記録すること規定した要求事項。合わせて、インプット事項のレビューと内容の確実性を求めている。

■a)項は、製品要求項であるが、数値化できない定性的/感覚的な表現による性能/機能、特性などもある。可能な限り、代用特性や技術用語に置き換えたり、あいまいさを排除し、わかりやすい表現をする工夫が必要となる。

■b)項は、過去設計事例をインプットすることにより、過去設計での成功例の流用、失敗事例の参照などによる設計効率の改善、問題発生の予防など、設計・開発プロセスの合理化と完成度に寄与することを求めている。

■c)項は、関連規制項目、特に製品安全に関する該当法規を漏らさないことが重要となる。

■d)項は、組織の社内標準、もしくは、事業上の制限、経済性、及び市場での製品・サービスに対する社会的制限などの事項についても考慮しておかなくてはならない場合がある。特に、製品安全衛生に関する管理の基準。(箇条8.3.2.iに関連)

■e)項は、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis:潜在的な故障の体系的な分析方法)などがある。リスクに対する考え方である(0.3.3参照)。

■設計・開発にインプットすべき事項は以下が考えられる。例えば、製品安全対応、競合対応、製品保存環境や製品輸送環境(温度・湿度等)、梱包要求、リサイクル性、分解容易性、生産性、組立性、環境保全性、VA/VE案件、特許/意匠登録関連、有機栽培(オーガニック)、フェアトレーディング、紛争鉱物対応などがある。


文書、記録例

 「設計仕様書」、「スペックシート」、「開発企画書」、「該当法令・規制一覧」、「要件定義書」、「設計・開発インプット一覧」、「設計・開発インプットチェックリスト」など。

8.3.4 設計・開発の管理

 以下の事項を確実にするために、設計・開発プロセスの管理を適用すること。

  • a. 達成すべき結果の決定
  • b. 設計・開発の結果の、要求事項を満たす能力を評価するためのレビューの実施
  • c. 設計・開発からのアウトプットが、インプット要求を満たすことを確実にするための検証活動の実施
  • d. 結果として得られる製品・サービスが指定された用途又は意図された用途に応じた要求事項を満たすことを確実にするための妥当性確認の実施
  • e. レビュー、又は検証及び妥当性確認の活動中に明確になった問題に対する必要な処置の実施
  • f. これらの活動についての文書化した情報の保持(記録類)

注記:設計・開発のレビュー、検証、及び、妥当性確認は、異なる目的をもつ。これらは、組織の製品及びサービスに応じた適切な形で、個別にまたは組み合わせて行うことができる。


解説

■設計開発における各段階での具体的な実施内容がまとめられた箇条。

■a)項は、顧客要求を軸に必要なものを定める。例えば、機能、性能、価格、製造の容易性、安全性、環境性能など。

■b)項は、必要なレビューを実施し、問題を明確にして必要な処置を決める要求事項である(箇条8.3.2.b参照)。

■c)項の検証は、インプットで明確にされた要求事項に対して、アウトプットが満たされていることを確認することが求められる。(箇条8.3.2.c参照)

■d)項の妥当性確認は、設計・開発の結果から最終的にでき上がった製品・サービスが実用的であるか否かを確認することが求められる。(8.3.2.c参照)

■e)項は、それぞれの段階での発生した課題に対する処置をすること。

■f)項は、上記のレビュー、検証、妥当性確認の文書化された情報を、箇条8.3.2.jで明確にしたとおり、必要なものを保持することを求めている。

■設計・開発プロセスにおける参加者には、必要であれば、顧客を含む、当該設計・開発段階の関係者を指定する。(8.3.2.g参照)

■以上の事項は、複数回に渡って、実施される場合があることを考慮することも重要である。


文書、記録例

 「設計開発レビュー手順書」、「設計開発レビュー項目及チェックリスト」、「レビュー結果記録(問題点が発見された場合の必要処置、結果記録を含む)」、「設計検証手順書」、「検証計画リスト」、「検証結果記録」、「妥当性確認手順書」、「妥当性確認計画」(設計開発計画書の一部として)、「妥当性確認結果及び処置記録」、「試作品評価記録」、「初回出荷評価記録」、「構造計算書」、「建築確認申請許可書」、「システム要件定義書」など。

8.3.5 設計・開発からのアウトプット

・設計・開発からのアウトプットが、以下のとおりであることを確実にすること。

  • a. インプットで与えられた要求事項を満たす
  • b. 製品及びサービスの提供に関する以降のプロセスに対して適切である
  • c. 必要に応じて(as appropriate)、監視及び測定の要求事項、並びに合否判定基準を含むか、又はそれらを参照している
  • d. 意図した目的及び安全で適切な提供に不可欠な、製品及びサービスの特性を規定している

・設計・開発からのアウトプットに関する文書化した情報を保持(記録類)しなければならない。


解説

■本箇条は、設計・開発へのインプットに対して検証に適した形であることを条件に設計・開発からのアウトプットを明確にしてリリースすることを要求している。

■設計・開発のアウトプットとは、設計図面、仕様書、計算書、試作品など、組織の業種、製品・サービス要求事項内容により様々な形態がある。インプットと対比した検証では、インプット事項の塗りつぶし管理など、組織として適切な方法を工夫する。

■a)項は、アウトプットがインプット要求事項を満たすことを求めているが、インプット事項が具体的でない場合など、アウトプットの妥当性判断が難しい場合もある。従って、箇条8.2の「製品及びサービスのための要求事項の決定」など、源流からの要求事項については製品・サービス要求事項の達成確認を想定し、可能な限り具体化の工夫が必要である。

■b)項は、購買、製造・サービス提供プロセスへ適切な情報を提供する、という意味である。 外部提供者に対する情報(8.4.3項参照)、及び、製造及びサービス提供の管理(8.5.1)へのインプットとなる。

■c)項は、設計・開発プロセスの後につながる製品・サービス提供における合否判定基準を明確にすることを求めている。図面、仕様では、許容範囲などで示され、それを拠り所として検査、試験の良否判定基準が決められる。(8.5.1.c、8.6項参照)従って、この点が不明確であると、後工程である検査、試験、サービスなどのプロセスに影響がでる。

■d)項は、顧客の安全に関する最も重要な項目である。例えば、製品安全、食品安全など、関連する法令・規制をアウトプットとして確実に網羅したものを後工程の実行部門に徹底する必要がある。設計・開発部門だけでは対応しきれないものもあるが、設計・開発プロセスにおけるレビューなどで組織の衆知を集めるなど、組織としてのリスク管理レベルが問われる部分である。なお、組織の判断により、労働安全衛生関連の項目を付加することも有効と考えられる。

■「必要に応じて(as appropriate)」は、「適している」といった意味合いで、組織に一定の自由度がある。


文書、記録例

 「設計図面」、「部品表」、「仕様書」、「計算書」、「試作品」、「ソフトウェア」、「イベント企画書」、「クリニカルパス」、「レシピ」、「取扱説明書」、「検査仕様」、「材料表」、「購買情報」など。

8.3.6 設計・開発の変更

・製品及びサービスの設計・開発の間又はそれ以降に行われた変更を、要求事項への適合に悪影響を及ぼさないことを保証するために必要な範囲で特定し、レビューし、管理すること。

・以下に関する文書化した情報を保持(記録類)すること。

  • a. 設計・開発の変更
  • b. レビューの結果
  • c. 変更の許可
  • d. 悪影響を防止するための処置

解説

■設計・開発で実施された変更を確実に管理し、文書化した情報を保持することが要求事項となっている。

■変更に関しては、検証等の確認を変更実施前に行い、その変更により生じる影響について現行製品・サービス及びリリース済の製品・サービスについて、確認、評価し、必要な場合には処置を実施して、それらの文書化した情報を保持することを求めている。

■設計・開発変更は、法令・規制の変更、契約内容の変更、市場状況(競争相手の状況含む)からの変更、設計・開発中の変更、後工程(製造、検査、サービス、供給者など)からの改善・改良要求、顧客/市場からの苦情・クレーム対応など、様々な要因により実施される。

■組織は、変更に対する検証行為の要否、または変更の内容に応じて、選択または組合せ、並びにその程度を決める。なお、検証行為の要否の判断基準を組織として決めておくと良い。

■変更実施前の承認については、組織内部の手順や取り決めに基づくとともに、委託された設計などの場合であれば、契約に基づく顧客による承認も含まれていると解釈すべきである。 (自動車産業、航空宇宙産業では、契約で変更に取り決めが明確にされている例がある)また、契約条件には記載されていない場合でも、業界通例や顧客への情報開示の視点で、変更内容を連絡することもあり、組織としての手順、取り決めを明確にしておくとよい。

■製品の部品変更の場合、その変更により製品全体の機能・性能に影響することがあり、その製品と組み合わされる他製品の互換性に影響することもあるなど、製品によっては変更する部品のみならず、システマティックな配慮が必要となってくるような例がこれに当たる。また、在庫品、販売済製品に対する修理サービス対応、変更理由によっては回収、交換、修理などの必要性を評価することが含められている。


文書、記録例

 「設計変更管理規程」、「設計・開発手順書」、「変更管理台帳」、「設計変更記録」、「変更連絡書」、「設 計変更申請書」、「変更管理記録」、「CR(チェンジリクエスト)」、「FCN(フィールドチェンジノーティス)」など。

8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理

8.4.1 一般

・外部から提供されるプロセス、製品及びサービスが、要求事項に適合していることを確実にする。

・以下に該当する場合、外部から提供されるプロセス、製品及びサービスに適用する管理を決定する。

  • a. 外部提供者からの製品及びサービスが、組織自身の製品及びサービスに組込む事を意図した場合
  • b. 製品及びサービスが、組織に代わって、外部提供者から直接顧客に提供される場合
  • c. プロセス又はプロセスの一部が、組織の決定の結果として、外部提供者から提供される場合

・要求事項に従ってプロセス又は製品・サービスを提供する外部提供者の能力に基づいて、外部提供者の評価、選択、パフォーマンスの監視及び再評価を行うための基準を決定し、適用しなければならない。

・これらの活動及びその評価によって生じる必要な処置について文書化した情報を保持(記録類)する。


解説

■外部から提供されるプロセス、製品・サービスの定義がa)、b)、c)で明確にされている。

■a)項は、従来、購買と表現していた物の購入に該当する。

■b)項は、OEM(original equipment manufacturer:納入先商標による受託製造)などに該当する。

■c)項は、従来、アウトソースと表現していた、協力会社などによる加工、組立、輸送などに該当する。

■組織が外部提供者を選定するための評価、並びに再評価基準を制定することが求められており、加えて評価結果及び必要な処置の文書化した情報を保持しなければならない。

■外部提供者に製品・サービス又はプロセスを委託する場合、組織が委託しようとしている外部提供者が、組織の要求事項(品質、コスト、納期、数量/規模など)に充分応えられる実力、能力を持っている必要がある。発注に先立ち、組織はこれらの点を評価し選定することが規格の要求であり、組織は評価項目、評価基準、並びに再評価基準を定めなければならない。


文書、記録例

 「アウトソース管理規程」、「供給者評価手順」、「供給者評価及び処置の記録」など。

8.4.2 管理の方法及び程度(Type and extent of control)

・外部から提供されるプロセス、製品及びサービスが顧客に一貫して適合製品及び適合サービスを引き渡す組織の能力に悪影響を及ぼさないことを確実にする。

・以下の事項を行う。

  • a. 外部から提供されるプロセスが、組織のQMSの管理の範囲内に留まっていることを確実にする
  • b. 外部提供者へ適用することを意図した管理、及び結果として生じるアウトプットへ適用することを意図した管理の両方を定める
  • c. 以下を考慮に入れる(take in to consideration)
    • ①外部から提供されるプロセス、製品及びサービスが、顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を一貫して満たす組織の能力に与える潜在的な影響
    • ②外部提供者によって適用される管理の認識された有効性
  • d. 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスが要求事項を満たすことを確実にするために必要な検証又はその他の活動を明確にする

解説

■外部から提供される製品・サービスに関する管理の方式と程度を定めることの要求事項である。定める程度は以下を考慮しなければならない。

■a)項は、QMSの管理範囲の中に、外部提供者のプロセスを取り込むことが求められている。 具体的には、外部提供者による管理の程度(工程管理、工程内検査、出荷検査など)に応じた、組織の管理体制の確立(受入検査、立入検査、第二者監査、力量の把握、要員教育支援、設備機器の提供など)を求めている。

■b)項の「外部提供者へ適用することを意図した管理」は、従来の「アウトソース先の管理」を意味し、「結果として生じるアウトプットへ適用することを意図した管理」は、「購買製品の管理」を意味している。その管理方法を決める際には、C)項を考慮に入れることが求められている。

■c)項の考慮事項は、外部から提供されるプロセス、製品・サービスに顧客要求品質や順法に関するリスク及び機会が特定、考慮されることを求められている。(6.1.2参照)

■d)項は、b)項で定めた管理方法に対する検証、又は、その他の活動である。外部から提供される製品及びサービスを受け入れる際に、必要な検査、その他の活動を定めて実施することの要求事項である。外部提供者先での検証の実施に際して、検証要領、出荷手順を購買文書で具体化することが重要である。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、箇条8.4.1において、箇条8.4全体としての文書化された情報が要求されている。

 「受入れ検査手順/記録」、「発注書」、「委託/発注基本契約」、「納入伝票」など。

8.4.3 外部提供者に対する情報

・外部提供者に伝達する前に、要求事項が妥当であることを確実にする。

・以下の事項に関する要求事項を外部提供者に伝達する。

  • a. 提供するプロセス、製品及びサービス
  • b. 以下の承認
    • ①製品・サービス
    • ②方法、プロセス及び設備
    • ③製品・サービスのリリース
  • c. 必要な適格性を含む、人々の力量
  • d. 組織の外部提供者との相互作用(interactions)
  • e. 組織が適用する、外部提供者のパフォーマンスの管理及び監視
  • f. 組織又はその顧客が外部提供者の施設での実施を意図している検証又は妥当性確認活動

解説

■外部提供者に対する情報では、外部から提供される製品・サービスの内容を明確にし、必要な場合は外部提供者の手順、プロセス、設備、要員、QMSに関する要求事項を含め、委託/発注前に内容の妥当性確認を行うことを要求している。ここで特に重要なのは、外部提供者に対する要求事項が確実、正確に網羅されており、委託/発注ミスを誘発する曖昧さが残らないようにすることである。

■外部提供者に委託発注する際、委託/発注の内容は明確、かつ具体的でなければならない。 明確にすべき内容はa)~f)項に示されている。

■a)項は、頼む内容の明確化を要求しており、例えば製品・サービスの名称、内容(仕様)、数量、納期など、購買のための基本的な事項がこれに当たる。

■b)項は、製品・サービス、手順、プロセス、設備の承認を求めている。 ・納入仕様書/図面/企画書、検査記録/成績書などの提出要求 ・作業手順書、規定、規格、QC工程図などの提出要求 ・品質保証体系図、工程能力などの提出要求 ・設備管理手順/記録、計測機器トレーサビリティ体系、校正証明書などの提出要求

■c)項は、外部提供者における要員の適切性を求めている。 ・特殊技能/資格の必要性の指示、技能/スキルなどに対する要求 ・教育訓練手順/記録、資格認定記録などの提出要求

■d)項は、組織と外部提供者間のプロセスの相互作用に関する取り決めを求めている。それは、業務分担を明確にすると考え、例えば、1次加工から2次加工に至る外部提供者間の業務範囲や順序などがある。また。組織のQMSに関して外部提供者に参画を求める範囲があればそれも含められるべきである。例えば、是正処置の報告様式や、統計的品質管理手法の適用がある。

■e)項は、外部提供者の評価方法の情報。評価方法としては、品質報告会、表彰制度、不良報告書、年間成績表などが考えられる。また、第二者監査の受入れ要求、必要規格に対する認証又は適合要求、組織固有のマネジメントシステム導入の要求など。

■f)項は、自組織や顧客が外部提供者先で検証を実施する場合には、前もって外部提供者に提供する情報の中で検証要領とリリース方法を明確にしておかなければならない。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、箇条8.4.1において、8.4全体としての文書化された情報が要求されている。「注文書」、「発注伝票」、「発注計画書」、「発注仕様書」、「図面」、「取引先基本契約」、「年間成績表」、「委託先へのQMS要求仕様書」など。 

8.5 製造及びサービス提供

8.5.1 製造及びサービス提供の管理

・製造及びサービス提供を管理された状態で実行すること。

・管理された状態には、以下の事項で該当するものを含める。

  • a. 以下を定めた文書化した情報が利用できる
    • ①製造する製品、提供するサービス、又は実施する活動の特性
    • ②達成すべき結果
  • b. 適切な監視及び測定の資源が利用でき使用する
  • c.プロセス及びプロセスアウトプットの管理基準、並びに製品及びサービスの合否判定基準を満たしていることを検証するために、適切な段階で監視及び測定を行う
  • d. プロセスの運用に適切なインフラストラクチャ及び環境を使用する
  • e. 必要な適格性を含め、力量を備えた人々を任命する
  • f. 製造及びサービス提供のプロセスで結果として生じるアウトプットを、それ以降の監視又は測定で検証することが不可能な場合には、計画した結果を達成する能力について、妥当性を確認し、定期的に妥当性を再確認する
  • g. ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する
  • h. リリース、顧客への引渡し及び引渡し後の活動を実施する

解説

■本箇条は、製造及びサービス提供に関する総括的な要求事項である。a)~h)項で規定する状態から該当するものを含めて計画、管理された状態で行うことを求めている。

■規格が要求している“管理された状態”とは、a)~h)項の内容を含めて、5W1H、4Mが明確化された手順の通りに製造及びサービスが提供され、計画通り実行されていることが監視・測定され、必要な修正/是正が行われ、望まれた結果が継続して得られている状態と言える。

■本項は、製造及びサービスの提供プロセスの内容を総合的に要求している。規格が規定しているa)~h)項は、以下のように解釈される。

■a)項:製品・サービスを提供していく上で、どのような内容を、どの程度までなど望まれる結果の具体的指針が必要となり、それらの製品・サービスの特性を述べた情報が製品・サービスの提供者に利用可能な形で、一般的に仕様書、図面、企画書などで示される。

■b)項:監視機器及び測定機器は、製品・サービスの品質確認などで重要なものとなる。これら機器についてもその利用・使用を確実なものとしていくための要素は設備の場合と同様である。(箇条7.1.5.2参照)

■c)項:監視・測定の対象プロセス、監視・測定項目、監視・測定のパラメータなど、監視・測定に必要な基準を決定しておく必要がある。なお、監視・測定及びそれからのデータの分析など、組織内での実行者、管理者は監視・測定項目、内容などを明確にし確実に実施する。

■d)項:適切なインフラストラクチャ(設備など)が使用できることは、製造及びサービスの提供において重要となる。(箇条7.1.3参照)管理を確実に実施するに当たっては、設備導入後の保守・点検による機能/性能の維持、設備の取り扱い・操作手順などの良し悪しが重要な点である。なお、設備には冶工具等も含めて考えると良い。また、品質に関わる環境を明確にし、管理する。(箇条7.1.4参照)

■e)項:要員の力量に関する要求事項である。(箇条7.2参照)力量には、免許や資格も含まれる。

■f)項:妥当性確認の対象となるプロセスである。
・アウトプットがそれ以降の監視・測定で検証することが不可能なプロセス
・製品が使用され、又はサービスが提供されてからでしか不具合が顕在化しないプロセス

■妥当性確認の対象となるプロセスには、以下のような例が該当する。
・熱処理、めっき、塗装、溶接、半田付、圧着、コンクリート打設
・医療、医薬サービス、食品調理、食品の殺菌、酒蔵の発酵
・リアルタイムでのサービス提供(レストランでの料理、ホテル、旅館)

■妥当性確認の方法としては以下を考慮する。
・プロセスのレビュー及び承認のための明確な基準
・設備の承認及び要員の適格性確認
・所定の方法及び手順の適用
・記録に関する要求事項
・妥当性の再確認

■g)項:ヒューマンエラーを防止するための処置としては、品質ヒヤリハット、ポカヨケ、フールプルーフ、フェイルセーフの概念などを利用する。箇条7.1.4の「プロセスの運用に関する環境」と関連する。

■h)項:リリース(次のプロセスに進める)及び顧客への引渡しの活動は、製品・サービスの実現プロセスの最終段階であり、ここに至るまでの各プロセスの確実性に影響されるプロセスとなる。リリース、引渡しを正式に許可するための裏付けにはそれらプロセスが確実に実施されたことを示すエビデンスがあるとよい。引渡し後の活動には、アフターサービスなどの保証規定に基づく活動、メンテナンスサービスなどの契約義務、瑕疵担保責任に基づく活動、リサイクル/最終廃棄などの付随するサービス活動などがあり、ほとんどの組織においては、規定、契約されており、場合によっては法規制などに基づいて、実行されているのが現状である。 (8.5.5と8.6参照)


文書、記録例

 箇条8.5.1.aで文書化した情報の利用が求められている。

 「品質目標」、「QC工程図」、「作業手順書」、「製造計画書」、「限度見本」など。

8.5.2 識別及びトレーサビリティ

・製品及びサービスの適合を確実にするために必要な場合、アウトプットを識別するために、適切な手段を用いる。

・製造及びサービス提供の全過程において、監視及び測定の要求事項に関連して、アウトプットの状態を識別する。

・トレーサビリティが要求事項となっている場合には、アウトプットについて一意(unique)の識別を管理し、トレーサビリティを可能とするために必要な文書化した情報を保持(記録類)する。


解説

■必要な場合に、製品・サービスそのもの、及び製品・サービスの状態に対する識別実施の要求事項。また、トレーサビリティが要求されている場合、製品・サービスの識別を管理して記録することを求めている。

■アウトプットは、組織の顧客又は内部の顧客(次のプロセスへのインプットの受領者など)への引渡しを準備する活動の結果である。これには、製品、サービス、中間部品、コンポーネントなどを含めることができる。

■識別の基本的な狙いは、誤使用、誤出荷など“取り違え”を防止することにある。識別により良品ロットの中に不良品が混ざってしまうような混入/混在などに対しても識別は有効である。

■トレーサビリティが要求事項であるか否かは、製品に適用される法規法令、顧客要求、あるいは組織自らの品質保証の必要性による。トレーサビリティの基本的な狙いは、重大な不適合が発生してしまったときなどに必要となる“回収”、苦情/クレーム、不適合などの修正/是正処置のために原因系(プロセス、ライン、手順、設備機器、供給者、資材/材料、場合によっては当事者など)まで遡及して特定できるようにすることにある。

■製品・サービスの識別、記録はこの目的に合った内容、範囲であることと、利用できる状態で管理されている必要がある。トレーサビリティは手段であって目的ではない。


文書、記録例

 「識別・トレーサビリティ管理手順」、「材料証明」、「製造記録」、「検査記録」、「検査成績書」など。

8.5.3 顧客又は外部提供者の所有物

・顧客又は外部提供者の所有物について、管理下にある間、又は使用している間は、注意を払わなければならない。

・使用するため又は製品及びサービスに組み込むために提供された顧客又は外部提供者の所有物の識別、検証及び保護・防護を実施しなければならない。

・顧客又は外部提供者の所有物を紛失若しくは損傷した場合、又はその他これらが使用に適さないと分かった場合には、その旨を顧客又は外部提供者に報告しなければならない。

注記:顧客の所有物の例:材料、部品、道具、設備、顧客の施設、知的財産、個人情報など


解説

■外部提供者とは、組織の一部ではない提供者のことである。提供者には、製品又はサービスの生産者、流通者、小売業者または販売者などがある。

■顧客又は外部提供者の所有物には注意を払い、識別、検証、保護、防護の実施の要求事項。また、顧客又は外部提供者の所有物を紛失、損傷させた、又は使用不適切な場合、その状況についての顧客又は外部提供者への報告と記録を求めている。

■顧客又は外部提供者から支給/提供されたものであっても、自分のものと同様に、またはそれ以上に大切(紛失、損傷、取り扱いなど)に扱うことを要求したものと考えられる。 属顧客又は外部提供者の所有物としては、下記のようなものがある。

・製品・サービス品に組み込まれるもの材料、部品、部品ユニット、接着剤、油脂、塗料などの加工資材、製造・サービス提供スペース/場所など。
・製造・サービス・検査/試験・修理・保全に利用するもの加工設備、測定機器、監視機器、見本/基準類、金型、治工具類、帳票類など。
・保存、引渡しに関連するもの梱包材、輸送資材、識別用帳票類、保管場所など。
・情報、顧客知的財産類仕様書、図面、見本/製品、及び顧客の顧客名簿、特許情報、機密情報など。

■物理的保護にとどまらず、技術などの知的所有権としても保護されることになる。

■組織が顧客からの注文書、メールアドレス、顧客台帳など個人情報の提供を受けて製品・サービスの提供を行う場合の管理の確実化が求められた。


文書、記録例

 「顧客所有物管理手順」、「顧客所有物管理台帳」、「支給品管理台帳」、「送付票/受領票」、「支給品不適合報告」、「数量不足、紛失、破損報告」、「受入れ検査記録」など。  

8.5.4 保存

・製造及びサービス提供を行う間、要求事項への適合を維持するために必要な程度に、アウトプットを保存しなければならない。

注記:保存(preservation)には、識別、取扱い、汚染防止、包装、保管(storage)、伝送又は輸送、及び保護を含めることができる。


解説

■本箇条は、製品・サービスの実現の全過程から、指定された納入先での受渡しまでの間、要求事項に適合できる製品・サービス(構成される要素を含め)に対する保存の要求事項である。 また、保存には、識別、取扱い、汚染防止、包装、伝送又は輸送、及び保護を含めることができる。

■「保存」の範囲は、製品・サービスの実現の全過程から顧客への引渡しまでとされる。また、製品・サービスの完成品ばかりではなく、顧客所有物(支給品)、製品を構成する要素、例えば材料/資材/機材、部品、サブアセンブリーされたユニットなどにも同様に要求事項が適用される。

■識別の例としては、誤出荷防止用などの社内識別表示、顧客要求による識別番号表示等。(顧客の部品番号・製造ロット番号・バーコードなど)

■取り扱い(Handling)の例としては、先入先出管理(FIFO)、電子部品の静電破壊防止、ウエハー取扱いにおけるピンセット使用禁止など。

■汚染防止の例としては、無菌室保管、独立配管容器による薬液保管、防塵・無塵室保管など。

■包装(Packaging)の例としては、顧客側の実装に適したテープ包装、ラッピング、防湿包装など。

■保管(Storage)の例としては、倉庫での材料/資材/機材、部品、製品の保管。先入先出管理(FIFO)、在庫回転を確実にする管理方法、長期保管品の点検・評価手順、常温保管、低温保管など。

■伝送または輸送の例としては、データ転送時の暗号化やパスワードの使用、冷蔵・冷凍輸送、ケータリングなど。

■保護(Protection)の例としては、防錆処理、防湿処理、防塵対策、防虫対策、デシケータ内保管、冷凍保管、恒温恒湿保管など。また、建設の施工現場での“養生”は、保護と考えられる。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、「保管手順」、「保管台帳」など。

8.5.5 引渡し後の活動

・製品及びサービスに関連する引渡し後の活動に関する要求事項を満たす。

・要求される引渡し後の程度を決定するに当たって、以下を考慮する(consider)。

  • a. 法令・規制要求事項
  • b. 製品及びサービスに伴って起こり得る、望ましくない結果(potential undesired consequences)
  • c. 製品及びサービスの性質、用途及び意図した耐用期間(life time)
  • d. 顧客要求事項
  • e. 顧客からのフィードバック

注記:引渡し後の活動には、無償修理保証、メンテナンスサービスのような契約義務、及び、リサイクル又は最終廃棄のような補助的サービスの下での活動を含めることができる。


解説

■本箇条では、組織が実施する必要のある、引渡し後の活動の性質及び程度を決定することを要求している。これらを決める際、組織は、特定の製品またはサービスに関連するリスク、製品またはサービスの性質、製品またはサービスの使用方法、ならびに製品またはサービスの意図したライフタイムを考慮する必要がある。顧客からのフィードバックならびに法令・規制要求事項も考慮する必要がある。

■引渡し後の活動例としては、無償修理保証、メンテナンスサービス、リサイクル時の注意事項、最終廃棄の注意事項、延長保証、製造終了後の部品保管機関、サポート期間などがある。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、「メンテナンス契約」、「保証書」など。

8.5.6 変更の管理(Control of changes)

・製造又はサービス提供に関する変更を、要求事項への継続的な適合を確実にするために必要な程度までレビューし、管理する。

・変更レビューの結果、変更を正式に許可した人々及びレビューから生じた必要な処理を記載した文書化した情報を保持(記録類)する。


解説

■製品またはサービスが規定要求事項を満たし、維持されることを確実にするために不可欠とされる、変更を管理することが要求されている(箇条8.1参照)。その際、組織は変更のレビューの結果、変更を正式に許可した人(達)ならびに、必要な処置を文書化した情報として保持しなければならない。

■実施の程度は「規格要求事項への適合を維持するために必要な程度に」となっているので、組織が決定できる。

■品質管理の原則が要求事項となった。(4M変更管理など)


文書、記録例

 「変更申請書」、「変更承認記録」、「製造結果確認書」など。

8.6 製品及びサービスのリリース

・製品及びサービスの要求事項を満たしていることを検証するために、適切な段階において、計画した取り決めを実施する。

・計画した取り決めが問題なく完了するまでは、顧客への製品及びサービスのリリースを行ってはならない。但し、該当の権限をもつ者が承認し、かつ、顧客が承認したとき(該当する場合)は、この限りではない。

・製品及びサービスのリリースについて文書化した情報を保持(記録類)し、これには、以下の事項を含める。

  • a. 合否判定基準を伴った、適合の証拠
  • b. リリースを正式に許可した人に対するトレーサビリティ

解説

■本箇条は、製品・サービス要求事項が満たされていることを検証するための、運用の計画及び管理(8.1)に従った監視・測定することの要求事項である。合否判定基準への適合の証拠を維持することとともにリリース/出荷を正式に許可した人の記録を求めている。また、特別の場合を除き、監視・測定が問題なく完了するまでは、顧客への製品のリリース/出荷及びサービスの提供は行わないことが求められている。


文書、記録例

 「検査・試験管理規程」、「検査・試験記録」、「出荷判定基準」、「出荷記録」など。

8.7 不適合なアウトプットの管理

8.7.1 管理要項

・要求事項に適合しないアウトプットが誤って使用されること又は引き渡されることを防ぐために、それらを識別し、管理することを確実にしなければならない。

・不適合の性質、並びにそれが製品及びサービスの適合に与える影響に基づいて、適切な処置をとらなければならない。これは、製品の引き渡し後、サービスの提供中又は提供後に検出された、不適合な製品及びサービスにも適用する。

  • a. 修正
  • b. 製品及びサービスの分離、散逸防止、返却又は提供停止
  • c. 顧客への通知
  • d. 特別採用による受入の正式な許可の取得

・不適合なアウトプットに修正を施したときには、要求事項への適合を検証する。


解説

■本箇条は、不適合品(サービス)を適合品として出荷・提供しないことが求められている。また、是正処置への展開起点ともなる。

■引渡後に不適合が検出された場合:不適合により客先にて発生した影響や発生する可能性のある影響まで含めて対応することが求められており、影響範囲や影響の深刻さを見積り、適切な処置を取らなければならない。

■不適合品の処置は以下a)~d)項のいずれかまたはそれらの組み合わせとなる。

■a)項:不適合を除去する:その結果、適合品になる。手直・再加工・修理等の処置。

■b)項:不適合品(サービス)を分離隔離、識別することを要求している。「不適合」なプロセスアウトプット、製品またはサービスが、顧客へ引き渡されない、または、誤って使用されないことを確実にするために管理方法を確立し実施する必要がある。また、封じ込め、散逸防止や元のプロセスに戻すこと、出荷停止などが求められる。

■c)項:顧客への通知は、場合によって必要であり、特に引渡後に不適合が発覚した場合の通知は重要である。

■d)項:特別採用とは、不適合事象が残っていても、次工程引渡・出荷許可をその責任と権限に基づき実施する処置のことである。顧客の正式な許可が必要な場合もある。

■手直し、修正処置を行った場合、不適合の内容によっては、要求事項への適合を再検証(再検査)で確認することが必要となる。

8.7.2 以下の事項を行った文書化した情報の保持(記録類)

a. 不適合の記載 b. とった処置の記載 c. 取得したあらゆる特別採用の記載 d. 不適合に関する処置について決定を下す権限をもつ者の特定


解説

■本箇条では、不適合の内容、及び、それに対する処置の記録が求められている。

■特別採用とは、不適合事象が残っていても、次工程引渡・出荷許可をその責任と権限に基づき実施する処置のことである。

■不適合に関する処置についての決定は、組織の責任者や有資格者又は顧客が考えられる。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、箇条8.7.2において、8.7全体としての文書化された情報が要求されている。

 「不適合品処置判定記録」など。

iso_09_08.txt · 最終更新: by norimasa_kanno
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