目次

6 計画

6.1 リスク及び機会への取組み

6.1.1 一般


解説

 ■箇条6.1「リスク及び機会への取組み(Action to address risks and opportunities)」は、4.1で特定された「課題」と4.2で特定された要求事項」を基にしてEMSの計画を策定することである。6.1では、決定された「リスク及び機会」に対する計画策定のプロセスを明確にする必要がある。

 ■規格はEMS全体の計画を策定する際に、組織の状況(箇条4)に配慮することを要求している。これは、組織の直面する内部及び外部の課題(4.1)ならびに関連のある利害関係者の要求事項(4.2)が、EMSの計画にどのように影響を及ぼすかを考慮することを意味している。

 ■本箇条6.1.1では、6.1全体を包含した説明を行い、具体的な説明は後半の6.1.2から6.1.4で行う箇条構成となっていることを意識すると良い。「リスク及び機会」の発生源は、「環境側面(6.1.2参照)、順守義務(6.1.3参照)、4.1及び4.2で特定したその他の課題及び要求事項」となる。また、著しい環境側面も「リスク及び機会」の発生源となり得る。

 ■これらの発生源に基づいて決定した「リスク及び機会」の結果が、6.1.4、6.2、及び、8.2へのインプットとなる。なお、「リスク及び機会」は「意図した成果が達成できる確信、望ましくない影響の防止・低減、継続的改善」の達成に関するものと考えることができる。

 ■ISO14001:2015では「リスク及び機会」を一括りの用語とし、3.2.11において「潜在的で有害な影響(脅威:threats)及び潜在的で有益な影響(機会:opportunities)」と定義していることに留意することが重要である。

 ■課題の例としては、設備の老朽化、要員の高齢化(世代交代)、社会変化、水素自動車の価格低下、太陽光パネルの補助金制度、水資源の管理強化、法令・規制の変化などが考えられる。課題(issue)の意味は「人々が何かについて議論している重要な話題」であり、ネガティブな内容だけでなく、プラスとなる事柄も対象となる。

 ■「リスク及び機会」の例としては、以下を参考にできる。

 ■ISO14001:2015では正式なリスクマネジメントプロセスは要求していない。どの様なプロセスにするかは組織に委ねられている。

 ■緊急事態は、環境に有害な影響を及ぼすもの、または、組織に対してその他の有害となり得る影響をもたらす潜在的な事象が考えられる。例えば、環境に有害となり得る火災・化学物質の漏えい、組織に有害となり得る悪天候・地震・近接施設・輸送手段の緊急事態が考えられる。自らの管理下にない地震・近隣の施設・輸送手段等が起因となる事態も含まれることを認識する必要がある。

 ■決定した緊急事態は箇条8.2のインプットとなる。

 ■本箇条では、4.1(内外の課題)と4.2(利害関係者のニーズ)を考慮した「リスク及び機会」に関する文書化した情報の維持が求められている。

 ■また、この箇条6.1では、以降の箇条6.1.2、6.1.3、6.1.4においても「必要なプロセスが計画どおりに実施されたと言う」文書化した情報(文書類)を維持することが、繰り返しの記述を避けるために求められている。


文書、記録例

 「リスク及び機会リスト」、「事業計画兼実績表」、「中・長期環境活動計画兼実績表」など。

6.1.2 環境側面

 注:著しい環境側面は、有害な環境影響(脅威)又は有益な環境影響(機会)に関連するリスク及び機会をもたらし得る。


解説

 ■本箇条はEMS固有の箇条であり、組織固有の具体的な環境側面について決定が求められる。

 ■本箇条には、「リスク及び機会」の文言はないので、「リスク及び機会」に関わらず環境側面の決定を2004年版と同様に行えば良い。

 ■環境側面は、箇条3.2.2において「環境と相互に作用する、又は相互に作用する可能性のある組織の活動又は製品またはサービスの要素」と定義されている。有害・有益の概念はない。

 ■環境影響は、箇条3.2.4において「有害か有益かを問わず、全体的に又は部分的に組織の環境側面から生じる、環境に対する変化」と定義されている。環境側面が起因となり生じる結果と考えることができる。有害・有益の概念が存在する。

 ■「管理できる環境側面」及び「影響を及ぼすことができる環境側面」の考え方はこれまでと同様である。「管理できる環境側面」は、組織が設定したEMSの適用範囲内の環境側面であり、組織の意思によってその取扱いを決定することができる全ての活動・製品及びサービスの要素が該当する。 一方、製品・サービスは、適用範囲の外では管理のできない側面になる。 そのような場合でも、組織が影響を及ぼすことができる範囲内で管理を行うというのが規格の意図であり、これを「影響を及ぼすことができる環境側面」と表現している。

 ■ISO14001:2015版では、環境側面と環境影響の決定が要求されている。「環境影響の決定」は新規要求事項であるが、通常の組織では環境影響評価を行っており大きな影響は出ないと思われる。

 ■考慮に入れるべき緊急事態は、箇条6.1.1で「決定すると言及されているもの」である。

 ■「ライフサイクルの視点の考慮」が追加された。ただし、「詳細なライフサイクルアセスメント」を要求している訳ではなく、ライフサイクルの視点で注意深く考えて欲しいという意図である。サプライチェーンへの影響力が及ぶ範囲での取組みが求められる。その前提として製品ライフサイクルを考えた場合に、各段階(原料調達、設計、製造、流通、使用、廃棄)でどのような影響をどの程度及ぼしているのかを把握し、その対応として、組織は上流(調達や設計)で対応可能な事項を明確にすることが重要である。

 ■その他では、環境影響の決定(前述)、緊急事態の決定、著しい環境側面の伝達が追加された。

 ■「著しい環境側面」の考え方はこれまでと同様である。「著しい(significant)」の基準として、「環境上の事項、法の要求事項、法的課題、利害関係者の関心」などが考えられる。この基準を文書化することが求められている。例えば、環境影響はそれほど大きくなくとも利害関係者の関心が非常に大きいものも著しい環境側面ととらえることができる(ISO14001:2004A4.3.1参照)。既存の基準を再確認することが重要である。なお、「著しい(原文Significant)」の意味は、オックスフォード辞典では「注意を払うべき充分大きい、もしくは重要な」、「特別な意味を有する」とあり、ネガティブな意味はなく、組織として重要なものという意味である。

 ■著しい環境側面は、“環境影響”の「リスク及び機会」となり得ることが注記に記述されている。 一方、6.1.3の順守評価は“組織”の「リスク及び機会」となっている点に差異が見られる。


文書、記録例

 「現況調査表」、「環境側面調査表」、「環境影響評価表」、「著しい環境側面の決定基準」、「環境法規制一覧表」など。

6.1.3 順守義務

 注記:順守義務は、組織に対するリスク及び機会をもたらし得る。


解説

 ■本箇条はEMS固有の箇条である。

 ■順守義務とは、組織が順守しなければならない法的要求事項、及び、組織が順守しなければならない又は順守することを選んだその他の要求事項である。この「順守義務」という表現は、2004年版の「法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項」と比べ基本的な考え方に変更はない。

 ■本箇条にも、「リスク及び機会」の文言はないので、「リスク及び機会」に関わらずに順守義務を2004年版と同様に従来通り行えば良い。

 ■ISO14001:2015では、2004年版の「組織の環境側面にどの様に適用」から「順守義務を組織にどの様に適用」に変化した。組織としてどう対応するのかが明確に求められている。

 ■箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待」において決定された利害関係者のニーズ及び期待(要求事項)のうち、組織が順守することを決定したものは、順守することを選んだその他の要求事項となる。

 ■ISO14001:2015では、EMSの全てを通して順守義務の考慮が求められている。本箇条では順守義務は「考慮に入れる」とあるので、「考える必要があり、かつ除外できない」ものである。

 ■順守義務は、“組織”の「リスク及び機会」となり得ることが注記に記述されている。事例としては、組織として、法・利害関係者の要求事項に対して現場で順守していない様なリスクと、法・利害関係者の要求事項に対して運用面で最新版の更新を怠る様なリスクを考えることができる。

 ■順守義務の評価(順守評価)は、箇条9.1.2「順守評価」で実施する。


文書、記録例

 「環境法規制及びその他要求事項一覧表」、「順守評価表」など。

6.1.4 取組みの計画策定


解説

 ■EMSの意図した成果を達成するための優先事項である「著しい環境側面」、「順守義務」、並びに箇条6.1.1で特定した「リスク及び機会」に対してEMSの中で行わなければならない取組みについて経営レベルで計画することが求められている。

 ■取組みのための計画とは「戦略レベルの計画」を意味する。

 ■この計画は、それぞれの課題を経営レベルで後につづく箇条に振り分けられて具体的に実施される。つまり、著しい環境側面の管理、順守義務のチェック、そしてこれらから発生する可能性のあるリスクを含めて経営レベルの課題のリスクをインプットとしてその後のEMSのどの要素で管理するかを決定するということである(下図参照)。この計画は、他の事業プロセスへの統合により行うこともできる。今回の改訂の最重要ポイントといえる。

 ■経営レベルの「リスクおよび機会」は、マネジメントレビューにおいて、その環境変化が確認される場合も考えられる。但し、その変化を感知するための仕組みは、組み込まれるべきである。例えば、継続的なプロセスとしての会議体や委員会などが考えられる。

 ■取組みのための計画に対しては「取組みの有効性の評価」の方法も求められている。また、取組みを計画するときに、技術上の選択肢、並びに財務上、運用上及び事業上の要求事項を考慮することが求められている。これらの選択肢・要求事項を考慮するにはリーダーシップが必須となる。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、「事業計画書」なども考えられる。
 また、「環境マニュアル」や「環境プロセスの体系図」などによって、経営レベルでのEMSの取組みの計画を表現している場合は、その文書類もその役割を持つと考えても良い。

6.2 環境目標及びそれを達成するための計画策定

6.2.1 環境目標

「考慮」の解説
 「考慮に入れる(take into account)」は、考慮する必要があり、かつ、除外できない。
 「考慮する(consider)」は、考慮する必要があるが、除外できる。

「測定可能」の解説
 測定可能(measurable)とは、Quantitative(定量的)とQualitative(定性的)の両方ある。


解説

 ■付属書SLに基づき、従来の環境目的・環境目標から一本化され環境目標となった。

 ■本箇条では6.1.4で決定された取組むべき事項(著しい環境側面、順守義務、リスク及び機会)に含まれる課題から環境目標として取組むべきものを決定することが求められている。

 ■環境目標は、戦略的、戦術的、又は、運用的レベルで確立してもよい。戦略的レベルはトップマネジメントを含み組織全体に適用できる。戦術的及び運用的レベルは、組織内の部門単位または、業務活動毎の環境目標を設定することができる。これは、組織の戦略的方向性と両立が望ましい。

 ■「著しい環境側面及び関連する順守義務を考慮に入れる」とは、それぞれの著しい環境側面に対して環境目標を設定しなければならない、ということではない。しかしながら、環境目標を設定する際には、著しい環境側面の優先順位は高い、ということを意味している。

 ■測定可能とは定量的と定性的の両方がある。ここでは、環境目標が達成されているかどうかを判断するための基準に対して定量的または定性的な方法のいずれかを用いることが可能であることを意味している。


文書、記録例

 「環境目標」、「方針管理規程」、「環境目標実行計画書」、「進捗管理表」など。

6.2.2 環境目標を達成するための取組みの計画策定

解説

 ■本箇条では、6.2.1で設定した環境目標に対して、その実行計画を具体化することが要求され、環境目標達成のための活動には、具体的な活動内容がわかるような不可欠な要素の特定(5W1H)が求められている。

 ■「戦略レベルの環境目標」や「運用レベルの環境目標」に対する5WIHでの計画を策定する。

 ■環境目標の進捗管理は、箇条9.1.1「環境パフォーマンス、一般」で決定される「基準及び指標」に基づいて実施することになる。

 ■結果の評価方法は6.2.2の計画段階で決定する。

 ■環境目標の中には様々な事業プロセスに包含されて、実施されるものもある事を認識することも重要である。


文書、記録例

 箇条6.2.2では、文書化された情報の要求はないが、箇条6.2.1において、環境目標に関連する全体としての文書化された情報が要求されている。
 「環境目標実行計画書」、「進捗管理表」など。

 附属書SLのHLS(High Level Structure、上位構造)を使用して構成されているため、箇条6の計画(PLAN)に続いて、箇条8の「運用」で実行(DO)、箇条9の「パフォーマンス評価」で評価(CHECK)へと展開していく。また、箇条9.3の「マネジメントレビュー」では、箇条4.1の「外部内部の課題の変化」と箇条4.2の「利害関係者の要求事項」を見直す要求があるため、箇条4からスタートしてぐるりと一周する仕組みとなっている。

2023/11/23 15:08 · norimasa_kanno