目次

5 リーダーシップ

5.1 リーダーシップおよびコミットメント

 ・トップマネジメントは以下を実証(demonstrate)する。

 注記:この国際規格で“事業”という場含、組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解釈され得る。

「確実にする(ensure)」の解説

 動詞が“確実にする(ensure)”の項目は、実行責任を委譲してもかまわないが説明責任については委譲できない。


解説

 ■トップマネジメント(経営層)が、EMSの構築、実施、及び有効性の継続的改善に対して果たすべき責務が規定され、経営層のコミットメントを実証(demonstrate)することが求められている。

 ■トップの直接の関与が必要な要求事項と、実行責任(responsibility)を委譲しても良い要求事項の二つに分けられる。ただし、説明責任(accountability)は委譲できない。下線を施した“確実にする(ensure)”とある項目は、実行責任を委譲することができるが、実施されたことを確かにすることの説明責任(accountability)はトップが有する。(A.5.1参照) 一方、a)、e)、g)、h)、i)は、実施をトップマネジメントが委譲できず、自ら実施する項目である。

 ■改訂の柱である、事業プロセスへの統合が明確化された。事業プロセスへの統合とは、EMSが企業の通常の経営管理体制とリンク(ひも付け)されていると言う意味である。例えば、「最高意思決定体制とリーダーシップ・マネジメントレビュー」、「CSR体制と順守義務・順守評価」、「リスク管理体制とリスク及び機会」、「業務支援体制とユーティリティ管理・公害防止」などが考えられる。

 ■意図した成果の3項目とは、「環境パフォーマンス向上、順守義務への適合、環境目標を満たすこと」である。

 a)EMSの有効性(effectiveness)に説明責任(taking accountability)を負う
 「有効性(effectiveness)」の定義は、「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度(附属書SL共通定義3.06)」となっている。ここでの「計画」は、箇条6「計画」で策定した計画を指し、その計画に沿った活動の結果、関連する部門と階層の目的がどの程度達成されたか、その成果の目的に対する程度が「有効性」となる。EMSの有効性に関する最終責任はトップマネジメントにあり、説明責任はトップマネジメントから委譲できない。

  b)EMSに関する環境方針及び環境目標を確立し、それらが組織の戦略的な方向性及び組織の状況と両立することを確実(ensure)にする組織の戦略的な方向性と矛盾しない環境方針及び環境目標が確立されていることを確実(ensure)にすることを求めている。環境方針、環境目標が設定される仕組みの確立がポイントになる。動詞が“'確実にする(ensure)”なので、実行責任をトップマネジメントから委譲してもかまわない。

 c)組織の事業プロセスへのEMS要求事項の統合を確実(ensure)にする
 附属書SLのコンセプトである「マネジメントシステムと事業プロセスの一体化」を具体的な要求事項として求めている。事業プロセスの中で、EMSを矛盾なく運用できるようにすることがポイントになる。動詞が“確実にする(ensure)”なので、業務の遂行をトップマネジメント以外に委譲することができる。

 d)EMSに必要な資源が利用可能であることを確実(ensure)にする
 EMSで必要な資源を関連各部門で活用することができるようにすることが求められている。
 ここでいう「資源」は組織の事業によって異なるが、要員、インフラストラクチャ、材料、エネルギー、知識、財務などが考えられる。多くの場合、資源の必要性は、トップマネジメントでなく、それぞれの実施部門で決定される。この要求事項は、動詞が“確実にする(ensure)”なので、権限委譲する管理者を選んで委譲してもかまわない。

 e)有効な環境マネジメント及びEMS要求事項への適合の重要性を伝達する
 トップマネジメントが先頭に立って、有効な環境マネジメント及びEMS要求事項への適合が重要であることを組織内に伝達することを求めている。

 f)EMSがその意図した成果を達成することを確実(ensure)にする
 「意図した成果」は、マネジメントシステムの目的である。EMSの場合は、箇条1「適用範囲」に定められた「環境パフォーマンスの向上」、「順守義務を満たすこと」、「環境目標の達成」が意図した成果である。動詞が“確実にする(ensure)”なので、業務の遂行をトップマネジメント以外に委譲することができる。

 g)EMSの有効性に寄与するよう人々を、指揮し、支援する
 具体的には、環境方針などで、直接、間接的に指示を与え、マネジメントレビューなどを通して、組織の活動を支援し、監督を行うことなどが考えられる。この要求事項は、トップマネジメント自身が実施する必要がある。

 h)継続的改善を促進する
 トップマネジメントが、組織が継続的改善に積極的に取組むように、環境方針などで継続的改善の基本的仕組を支持し、システムの改善につながるように行動することなどが求められている。

 i)その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証(demonstrate)するよう、管理層の役割を支援する
 関連する各マネージャーが、リーダーシップを実証するための支援をすることを求めている。
 この要求事項は、トップマネジメント自身が実施する必要がある。


文書、記録例

 文書化された情報の要求は特にない。

5.2 環境方針

・トップマネジメントは、以下の事項を満たす環境方針を確立し、実施し、維持する。

 注記:環境保護に対するその他の固有なコミットメントには、持続可能な資源の利用、気候変動の緩和及び気候変動への適応、並びに生物多様性及び生態系の保護を含むことができる。

・環境方針は、次に示す事項を満たすこと。


解説

 ■トップマネジメントが、環境に関する要求、期待を、環境方針として明確にし、組織が進むべき方向性を示し、組織全体がその方向に進んでいくことを規定している要求事項。環境方針では、組織は現状を維持することに留まらず、継続的に改善することを要求している。事業活動の拠りどころとなる環境方針の内容について、下記a)~e)の適用が必要である。

 ■a)とb)項では、環境方針は組織の規模、事業活動や製品・サービスの特性を考慮されたものであること。例えば、環境方針における組織の環境目標との整合性は、組織運営の基礎となる経営理念、経営方針や事業計画と関連付けにより得られるなど。組織として関係者に分かりやすく表現することが重要である。

 ■c)とd)とe)項は、環境方針にコミットメントとして含まれることが求められている。

 ■c)の「組織の状況に固有な環境保護に対するコミットメント」が追加された。「組織に固有な」ということから、組織の環境上の課題が明確に表現されていることを求めていると考えるべきである。一般的な内容の環境方針のコピーでは十分とは言えない。

 ■ウェブサイトへの掲載は入手可能と判断することができる。


文書、記録例

 「環境方針」、「環境方針規程」、「環境方針レビュー記録」など。

5.3 組織の役割、責任及び権限

 ・トップマネジメントは、関連する役割に対して、責任及び権限を割り当て、組織内に伝達し、それが理解されることを確実にする。


解説

 ■EMSの管理運営に関する責任、権限を明確にすることを求めた要求事項である。

 ■責任・権限を明確にすることによって、EMSに関する運営管理の体制が確立される。

 ■特に、責任・権限の内容は関連部門できちんと認識されないと、業務の流れが阻害されるようなことにもつながってくることが考えられる。

 ■役割、責任、権限の文書化要求はなくなったが、意図するところは、形式ではなく実態を伴った管理者を求めることである。

 ■トップへの報告事項には「環境パフォーマンスを含む」と明記され、システムパフォーマンスだけではないことが明記されている。


文書、記録例

 文書化された情報の要求はないが、「環境マニュアル」(責任・権限が記載されている場合)、「組織図」、「組織規程」、「組織責任権限規程」、「職務分掌規程」「教育記録」など。

2023/11/23 15:08 · norimasa_kanno