解説
■本箇条では、組織の目的(purpose)及び戦略的方向性に関連があり、QMSの「意図した結果(intended result)」に影響を及ぼす可能性のある、内部及び外部の「課題(issues)」を決定(determine)し、監視・レビューすることを要求している。ここでアウトプットされる「課題」は、組織レベルの「課題」であり、経営層(top management)が関与する(ハイレベルな)課題である。 「意図した結果」というのは、マネジメントシステムの目的のことであり、箇条1「適用範囲」の以下のa)とb)は必ず含まなければならない。
なお、附属署SLでは、「意図した結果(result)」ではなく、「意図した成果(outcome)」となっていたが、意味は同じである。
■組織は、「品質方針」と整合していれば「意図した結果」を追加することもできる。例えば、「企業の継続的発展(ゴーイングコンサーン)」や「顧客の創造」等を「意図した結果」として、QMSの目的に含めることができる。
■「課題」の抽出方法に関しては、箇条4.1の注記に詳しく記述されている。注記によると、外部の課題に関しては「国際、国内、地方又は地域を問わず、法令、技術、競争、市場、文化、社会及び経済の環境から生じる課題」、内部の課題に関しては「組織の価値観、文化、知識及びパフォーマンスに関する課題」とあり、経営層の視点で、幅広く、組織を取巻く環境を俯瞰することを求めている。環境の変化を認識する重要性は、企業を生き物に例えた企業進化論である「強い企業が生き延びるのではない、環境に適応する企業が生き延びる」の概念と合致する。
■課題(issue)の意味は「人々が何かについて議論している重要な話題」であり、ネガティブな内容だけで無く、プラスとなる事柄も対象となる。
文書、記録例
文書化された情報の要求はない。一方、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」では、4.1「内外の課題」と4.2「利害関係者のニーズ」を考慮して「リスク及び機会」を決定するとある。
実際に組織としては、「マクロ環境分析」、「ミクロ環境分析」、「SWOT分析」「組織の課題」「事業計画の為のインプット情報」など様々な手法を、既に利用している場合も考えられる。組織が既に活用している手法やその結果がある場合は、それらを利用することも有意義である。
事例としては、「マクロ環境分析」、「ミクロ環境分析」、「SWOT分析」「組織の課題」「事業計画のためのインプット情報」など様々な手法が考えられる。組織が既存で活用している手法や記録等が要件を満たしていれば準用も可能である。
解説
■箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」では、「関連のある利害関係者」の「関連のある要求事項」を特定することを要求している。
■組織は、それらが特定された後に、これらの利害関係者及び彼らの要求事項に関して保有している情報を監視・レビューすることが求められる。
■「密接に関連する利害関係者」とは、顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品又はサービスを一貫して提供する能力に影響を与える団体または個人であり、時の経過と共に変化するものである。
■ISO9000:2015用語の定義では、利害関係者の例として「顧客、所有者、組織内の人々、提供者、銀行家、規制当局、組合、パートナー、社会(競争相手または対立する圧力団体を含むことがある)」を挙げている。顧客以外に株主や従業員が利害関係者に含まれていることは、「企業の継続的発展(ゴーイングコンサーン)」も「要求事項」に含まれることを示唆していると考えられる。
■QMSの意図した成果が顧客満足の向上である以上、“顧客”が最も重要な利害関係者であることは変わらない。利害関係者が、QMSに密接に関連するかどうかを決定するのは、組織である。
文書、記録例
文書化された情報の要求はない。一方、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」では、4.1「内外の課題」と4.2「利害関係者のニーズ」を考慮して「リスク及び機会」を決定するとある。
実際に組織として、「市場調査」、「アンケート調査」等、あるいは、CSRレポート等で記載されるようなステークホルダーダイアログ/エンゲージメントを既に活用している場合は、それらもその役割を果たす。
解説
■箇条4.3「QMSの適用範囲の決定」では、QMSの要求事項が何に適用でき、何に適用できないのかという境界を規定しなければならない。「適用範囲」は、「文書化した情報(documented information)」として利用可能であり、維持することが求められる。適用範囲には、QMSにより網羅される製品及びサービスを提示する必要がある。
■ある要求事項が、組織のQMSの適用範囲内で適用できる場合には、組織は、その要求事項を適用不可能と決定してはならない。ある要求事項が適用できない場合(例えば、相当するプロセスを実施していない場合)には、組織は、その要求事項を適用不可能と決定することができる。ただし、これを適用しないことで、製品及びサービスの適合が達成されない、又は顧客満足の向上という組織の狙いが達成されないことがあってはならない。
■ある活動が、顧客満足及び製品サービスの適合に影響を及ぼす場合、その活動を適用範囲に含めなければならない。例えば、顧客が、製品そのものだけでなく、アフターサービスを含めて満足することを期待している場合は、アフターサービスの部門も含めるべきである。
文書、記録例
適用範囲の情報がある場合は「品質マニュアル」、「適用範囲書」など。
必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む、QMSを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するために以下の項目を決定する。
解説
■本箇条では、プロセスアプローチに対する理解を深めるためにプロセスアプローチの採用に不可欠な要求事項をマネジメントシステムに対する一般的な要求事項としてまとめて記載している。ここでは、プロセスベースのQMSの導入、維持及び継続的改善も要求されている。
■本箇条では、箇条0.3項のプロセスアプローチを要求事項という形式で表現している。この要求事項に従って、システムを確立し、実施し、かつ維持することが求められている。また、プロセスの明確化、相互関係の明確化(プロセスマップ等)、管理基準の設定、必要な資源の投入、運用状況の監視・改善は、QMSのPDCAそのものを表現している。
■(プロセスマップの例)
■プロセスアプローチに取組む理由としては、事業活動をプロセスという観点でより詳細な単位に捉えなおすことにより、各プロセスの管理すべき項目が明確になり、顧客満足に向けた取組みを効率的に改善することが推進される。各プロセスからどのように結果が生み出されるかを理解することにより、組織はそのパフォーマンスを最適化することができる。
■業務活動の変更や組織変更が必要になるのではなく、あくまでも全体の最適化を図るための手段として採用すべきある。
■箇条5.1.1.dのトップマネジメントへの要求事項でもプロセスアプローチの利用促進が求められている。
■プロセスの概念は、次項の図(タートル図)の様に考えることができる。プロセスの文書化要求はないが、考えを明確にするために、文書化は役立つ場合がある。
文書、記録例
この箇条で要求される文書化された情報はないが、箇条4.4.2で要求されている。
解説
■「プロセス運用の支援に必要な文書化した情報の維持(maintain)」と「プロセスの計画的実施の実証に必要な程度の文書化した情報の保持(retain)」の二つの文書化された情報を要求している。
■「文書化した情報を維持する(maintain)」場合は「文書」、「文書化した情報を保持する(retain)」場合は「記録」を意味する。
■「品質マニュアル」というタイトルの文書は要求されていないが、「プロセス運用の支援に必要な文書化した情報」は要求されている。
文書、記録例
「品質マニュアル」、「プロセスマップ」、「プロセスのタートル図」、「プロセスの運用手順」、「プロセスの監視・測定結果」など。
このページへのアクセス 今日: 1 / 昨日: 1 / 総計: 87