====== 4 組織の状況 ====== ===== 4.1 組織及びその状況の理解 =====  ・組織の目的に関連し、且つ、EMSの意図した成果を達成する能力に影響を与える、外部及び内部の課題(issues)を決定(determine)する。  ・課題には、組織から影響を受ける又は組織に影響を与える可能性がある環境状態(Environmental conditions)を含む。 ---- **解説**  ■箇条4.1「組織及びその状況の理解」では、組織の目的(purpose)及び戦略的方向性に関連があり、EMSの「意図した成果(intended outcome)」に影響を及ぼす可能性のある、内部及び外部の「課題(issues)」を決定(determine)することを要求している。ここでアウトプットされる「課題」は、組織レベルの「課題」であり、経営層(top management)が関与する(ハイレベルな)課題である。  ■EMSの「意図した成果」は、箇条1「適用範囲」において環境方針に整合して、次の3つを含むものであると述べられている。 * ・環境パフォーマンスの向上 * ・順守義務を満たすこと * ・環境目標の達成  組織は、「環境方針」と整合していれば「意図した成果」を追加することもできる。  ■組織の状況に関係しうる内部・外部の課題の事例は次を含んでいる。 * ・気候、大気の質、水質、土地利用、既存の汚染、天然資源の利用可能性、生物多様性などで、影響を与えるか受ける可能性があるもの=環境上の課題 * ・国際、国家、地方、近隣地域を問わず、外部の文化、社会、政治、法律、規制、金融、技術、経済、自然及び競争の状況=事業環境上の課題 * ・組織の活動、製品及びサービス、戦略的な方向牲、文化、能力などの、組織の内部の特性又は状況=組織内部の課題  ■COP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で2015年12月12目に採択されたパリ協定によるCO2排出量削減に向けた新技術、再生可能エネルギーの利用等は、企業にとっての機会(チャンス)となり得る。  ■内部・外部の課題に対しては、複数のサイトを有する様な組織の場合には「全社の課題」と「個別サイトの課題」に分けて考えることが効果的な場合もある。  ■マネジメントシステムの範囲を決定する前に、上記の課題を配慮することが求められる。\\  (2004年版でも規格の附属害A.1に初期レビューの項目は見られた)  ■決定された課題は環境方針へのインプットとなる。  ■ここで決定された課題は、組織またはEMSに対するリスク及び機会をもたらし得るもので、組織は取組み、マネジメントする必要がある。 ---- **文書、記録例**  文書化された情報の要求はないが、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」では、4.1「内外の課題」と4.2「利害関係者のニーズ」を考慮した「リスク及び機会」に関する文書化した情報が要求されている。\\  事例としては、「マクロ環境分析」、「ミクロ環境分析」、「SWOT分析」「組織の課題」「事業計画のためのインプット情報」など様々な手法が考えられる。組織が既存で活用している手法や記録等が要件を満たしていれば準用も可能である。 ===== 4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解 =====  ・以下の事項を決定すること。 * a. EMSに関連する利害関係者 * b. 利害関係者の関連するニーズ及び期待(すなわち要求事項) * c. 順守義務となるもの ---- **解説**  ■箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」では、「関連のある利害関係者」の「関連のある要求事項」を決定することを要求している。  ■組織は内部外部の利害関係者が表したニーズ及び期待の理解を(高いレベルで)得ることを期待されている。  ■ニーズとは、「達成することが当然と考えられていること」、期待とは、「達成することが望ましいと考えられていること」である。  ■利害関係者には、環境パフォーマンスに関心を持つか、その影響を受ける人々及びグループが含まれる。用語の定義3.1.6では、利害関係者の例として「顧客、コミュニティ(地域住民など)、供給者、規制当局、NGO、投資家、従業員」を挙げている。  ■顧客以外に投資家や従業員が利害関係者に含まれていることは、「企業の継続的発展(ゴーイングコンサーン)」も「要求事項」に含まれることを示唆していると考えられる。  ■順守義務には法的要求事項など順守することが強制されている項目と、顧客との協定事項、組合決議事項、地域協定など、自発的な項目がある。組織が採用した利害関係者の要求事項は、順守義務となりEMSを計画するときに考慮に入れることとなる。(箇条4.4参照) ---- **文書、記録例**  文書化された情報の要求はないが、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」では、4.1「内外の課題」と4.2「利害関係者のニーズ」を考慮した「リスク及び機会」に関する文書化した情報が要求されている。\\  事例としては、「市場調査」、「地域協定」、「アンケート調査」等、あるいは、CSRレポート等で記載されるようなステークホルダーダイアログ/エンゲージメントもその役割を果たす。 {{ :iso14001_4組織の状況_図.png?nolink&600 |}} ===== 4.3 EMSの適用範囲の決定 ===== * ・EMSの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を決定する。 * ・この適用範囲を決定するとき、下記事項を考慮する(consider)。 * a. 4.1に規定する外部及び内部の課題 * b. 4.2に規定する順守義務 * c. 組織の単位、機能及び物理的境界 * d. 組織の活動、製品及びサービス * e. 管理及び影響を及ぼす組織の権限及び能力 * ・適用範囲が定まれば、その適用範囲の内の全ての活動、製品・サービスはEMSに含まれる。 * ・EMSの適用範囲の文書化した情報を維持(文書類)し、かつ、利害関係者が入手可能。 ---- **解説**  ■箇条4.3「EMSの適用範囲の決定」では、EMSの要求事項が何に適用でき、何に適用できないのかという境界を規定しなければならない。  ■先に決定している組識の状況、利害関係者のニーズ及び期待から発生する順守義務に照らして組み入れられるべき範囲が意図的に除外されていないかの確認が必要である。  ■また、適用範囲には「物理的境界」を明確にすることも求められている。認証取得組織の場合は、認証書にサイトのリストが添付されているため、これが適用できる。また、サイト内で除外している部分があればそれは明示する必要がある。  ■「適用範囲」は、「文書化した情報(documented information)」として利用可能であり、維持することが求められる。  ■適用範囲の設定を著しい環境側面を持つ活動、製品サービス、施設を除外するため、又は、順守義務を逃れるために用いるべきではない。  ■適用範囲は、事実に基づき、EMSの境界内に含まれる運用を表した記述であり、利害関係者にミスリードをさせる様な記述をすべきではない。\\  EMSは顧客(取引先)の要求で認証取得をしている事例が多い。この様な事例の場合、適用範囲の適切性は「利害関係者である顧客(取引先)が適用範囲を納得できるか」、または利害関係者である「顧客(取引先)に適用範囲を説明できるか」の視点で考えることが重要である。\\  一般的な「適用範囲の適切性」はこの考え方を参考にすると分かりやすい。  ■更に、適用範囲は利害関係者が入手可能でなければならないことが要求事項となった。入手可能な状態にすることが要求であるため、ウェブサイトで公開することもひとつの手段となる。  ■ISO/IEC17021(マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項)の箇条8.2.3では認証書の認証範囲においては「製品サービスの種類」「主なプロセス(部門)」「地理的所在地(場所)」の明示を要求している。 ---- **文書、記録例**  「適用範囲書」など。 ===== 4.4 環境マネジメントシステム =====  ・環境パフォーマンスの向上を含む意図した成果(環境パフォーマンス、順守義務、環境目標)を達成するため、要求事項に従って、必要なプロセス及びそれらの相互作用を含むEMSを確立し、実施し、維持し、継続的に改善する。  ・EMSを確立及び維持するとき、4.1及び4.2で得た知識を考慮しなければならない。 **解説**  ■箇条4.4では、EMSは「意図した成果」を達成するためのマネジメントシステムであることを述べている。  ■プロセスの概念は、下図の様に考えることができる。プロセスの文書化要求はないが、考え方の明確化に文書化は役立つ場合がある。 {{ :iso14001_4.4環境マネジメントシステム_図.png?nolink&500 |}}  ■「手順(Procedure)」という表現から「プロセス」に用語が変化している。プロセスには手順が含まれているが、手順のみならず、必要な資源や管理指標など必要な要素を有機的に運用することで本来意図するアウトプットを出すことができるという考えから概念を広げて考えるようになった。  ■組織は、以下の事項を実施するに当たっての詳細さのレベル及び程度を含む、方法を決定する権限と説明責任がある。 * a. プロセスの確立 * b. EMSの事業プロセスへの統合 * c. 組織の状況に関する課題(箇条4.1)、及び利害関係者の要求事項(箇条4.2)をEMSに取込むこと ---- **文書、記録例**  文書化された情報の要求はないが、「環境マニュアル」、「プロセスフローダイヤグラム」、「プロセスのタートル図」など。 {{page>[iso_09]#[ISO(2015)改訂テキストのメニュー]}}